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第一章国外追放
5.侯爵家にて
しおりを挟むアーデルハイドが悠々自適な暮らしをしていた頃、王都ではとんでもない事態が起きていた。
「この馬鹿者!」
侯爵家にて老人が杖で殴っているのはアーデルハイドの祖父にあたる人物だった。
「この馬鹿が!」
「お義父様おやめくださ…」
「黙れ!」
「きゃあ!」
夫が暴力を受けているのを庇おうとするも、こんなのは茶番劇だと気づいているので、今度は殴る標的を変えた。
「公衆の面前の前で暴力を振るって髪を切る等…正気の沙汰ではない!なんということを!」
レイジ・ランフォード。
アーデルハイドの祖父にあたる人物でもある。
「なんと可哀想なハイジ…私が馬鹿だった。こんな屑共に任せたばかり私の可愛い、可愛いハイジは屈辱を受け髪を切られて流罪などに!」
「ひど…」
「黙れ!」
バキィ!
傍に置かれている美術品が勝手に割れる。
「ひぃ‥」
「姉の婚約者を奪い、平然とするとは…幼少の頃から我儘で顔しか取り柄が無いと思っていたが…ここまで最低な孫だったとは。お前とは縁を切らせてもらう」
「お祖父様!」
「汚らわしい…お前はもう孫ではない」
手を伸ばすも杖で叩き、ばい菌のように扱う祖父に絶句する。
「レイジ様、あまり騒ぐとお体に触ります」
「申し訳ない、フレイア嬢」
傍で支える可憐な令嬢がレイジを落ち着かせる。
金色の髪に碧眼の美女が傍で支えながら蔑んだ目を向ける。
「今、我が家の影の者が急いで探しております。どうかお気を確かに」
「すまぬ」
「こんな外道に心を乱してはなりません。御老公に何かあればハイジがどれ程心を痛めるか」
冷静ながらもフレイアの目は怒りが込められていた。
「王太子殿下も直ぐに視察から帰りますわ。そうすれば希望は見えますでしょう?」
「は?王太子殿下?」
「貴女が知る必要はありませんわ。失礼」
美しい所作で流れる様な動きをしながらその場を去るフレイアは護衛騎士を連れて去って行く中振り返る。
「ああ、一つ言い忘れていましたが…この度の一件で王妃殿下はカンカンですわ?勝手に国王陛下が取り決めた婚約を破棄したのです。何時から王より偉くなったのかと…陛下もご立腹でしたわ」
「えっ…だが」
「それに、アイシャ様は普段から王宮でも御令嬢のあることないことを吹聴していらしたので、アーデルハイド嬢が嫌がらせをした証拠はありません。ですので、万一に出も無罪が解ればこれですわ」
首を手でスパッと切るフレイアに侯爵家の両親は真っ青になる。
「何を…」
「そうですわね?アーデルハイド嬢に暴力をした騎士は鞭打ちをされ、髪を切るように命じた馬鹿は牢獄行き…まぁ、彼女が無罪だったらですけど?」
クスクスと笑いながら告げるフレイアに表情が強張るアイシャ。
「王太子殿下が戻り次第、正式な調査が行われますのでご心配なく、証言だけではなく証拠を集めてね?」
「そんな…わざわざ」
「あら?どうしてですの?白黒はっきりつけた方がいいですわ。その間の調査にかかる費用に裁判の費用は勿論お支払いくださいね?モーギュスト様の実家は財政的にも無理でしょうし」
「は?」
「ギルビット侯爵家は多額の借金を背負ってました。もしかしてご存じありませんでしたの?」
「知らないわ!そんな…」
真っ青になるアイシャに不敵に微笑みながらもさらに告げる。
「でも良かったではありませんの?彼は婚約破棄を勝手にした所為で勘当されますわ…無一文で身一つでいらっしゃいますが、後継ぎであるアーデルハイド嬢がいないのでは侯爵家は返上ですわね」
「はぁ!」
「当然ではありませんか?アーデルハイド嬢は後継ぎとして教育を受け、両陛下も許可を出していますのよ?貴女のお父様は後継ぎの父親だけで後継ぎの権利は発生しておりませんわ」
貴族社会のことを何一つ学んでこなかったアイシャが知る由もない。
「嘘だと言うなら、学園の友人に聞いてごらんなさいな。では失礼」
「まっ…待ちなさい!」
アイシャが手を伸ばし、ヒステリックに叫ぶも、フレイアは振り返ることはなかった。
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