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第一章国外追放
2.御近所
しおりを挟む世に聞く島流しとは聞こえが悪いが、思っているほど悪いものではない。
外聞は悪いが、辺境地などには普通に生活している人もいるので、作物が豊作ならば過ごしやすかった。
「バナナだ」
アーデルハイドの住む邸は貴族にしては少し質素で別荘に近いが、住むには十分すぎるスペースがある。
しかも、ここら一帯は捨てられた邸も多く、貰い手がなかった。
「こんな素敵なお邸をほとんど無料で貰えるなんてラッキーよね」
追放される前に、色々調べておいた。
世間知らずの元婚約者は南国に島流しにしてして終わりと、短絡的だった。
「頭が空っぽな人で良かった。ここら辺はすごく平和なのに…馬鹿じゃないの?」
王都で貴族の中で生活するよりもずっと自由で伸び伸びしている。
「すいませーん、隣に引っ越してきました」
「おや?」
「本日からお世話になりますアーデルハイドと申します。これ、つまらないものですが」
島流しになってもアーデルハイドは持ち前の社交性でご近所を徹底していた。
「あっ‥あの、アンタが島流しになったお嬢さんかい」
「はい、国外追放になって島流しになった者です」
明るく言われてポカーンとするが、女性はすぐにギョッとなる。
「ちょっとアンタ…その格好」
「あ、すいません。みすぼらしい恰好で」
「そうじゃなくて、首元に傷が…それにその髪」
「あっ‥」
剣でばっさりと切られた髪の毛は見すぼらしいのでスカーフで隠していたが、バレてしまった。
「ちょっと見せておくれ」
そう言いながらスカーフを奪われると…
「なんて酷いことを。誰だい…こんな酷いことをしたのは!」
無残に切られた髪を見て絶句する。
明らかに故意的に無理矢理切られた髪に、首元には剣で刺された痕も残っている。
「隣国から貴族のお嬢さんが追放されて来たって話は聞いたんだ。でも、アンタが犯罪を犯すような子には見えないね」
「どうしてです?」
「これでも私は客商売をしてんだよ。瞳を見れば解るさ。アンタは悪いことを出来る人間じゃない…今のアンタを見て確信したよ」
肝っ玉母ちゃんのような女性だった。
「私はステラだ。解らないことは何でも聞きな」
「アーデルハイドと申します」
「よろしくねハイジ」
愛称で呼ばれ少し照れくさく感じるが、嫌だとは感じなかった。
「はい、これからよろしくお願いします」
「その前に、アンタの髪を綺麗にしないとね。さぁ入りな!」
「えっ…」
「女の子がそんなバサバサの髪をしてちゃだめだよ!私に任せな!」
強引に手を引かれ家の中に入れられ、アーデルハイドは髪を綺麗に整えられたり、お化粧などをされたりして世話を焼かれるようになった。
元からさっぱりした性格のステラは世話好きで、流罪になった人間にも愛情を持って接し、更生させている人徳者でもあったこともあってか、アーデルハイドはすぐにステラを慕う様になるのに時間はかからず、ステラの口添えもあってか、島の住人にも紹介してもらい、受け入れてもらうことも出来たのだ。
王都にいたときは息を潜めて生きて行かなくてはならなかった頃と違い、今は心から自由だと思えた。
失ってようやく見つけた大切な居場所で幸せを探すために一歩を踏み出すのだった。
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