上 下
11 / 41

10.真夜中の出発

しおりを挟む



パーティーが終わったその夜の内に荷物を纏めて王都を出ることにした。


「荷物はこれだけだな」

「ありがとうございます。助かりました」


調度品や、大切な物はエディーの収納スキルで運び込むことができた。
王都をすぐに出て港までは馬車で向かうことになる。


「ソフィア、貴女は私の友人よ。何かあったら飛んでいくわ」

「ありがとうございます姫様」


宮殿の裏口から馬車を用意して今夜中に港に向かう手はずになっている。


「聖女だと公に知っている人は少ないからあまり心配はないけど、道中気を付けて」

「はい、本当にありがとうございました姫様、皆さんも」


これが最後の別れではないが、平民となれば滅多に合うことはできない。
王宮に来るのはお忍びで来るか、緊急時だけになるだろう。


「結婚式にはからなず参加するわ」

「お気持ちは嬉しいのですが、よろしいのでしょうか」

貴族が挙げる盛大な結婚式じゃない。
平民が挙げる質素な結婚式なので一国の姫が参加するものではないのだが。

「私は旅で学んだのよ。平民の暮らしがどのようなものか…問題ないわ」

「アンタ、ある意味姫君より平民の暮らしの方が向いてんじゃねぇの?」

「エルンスト、個この無礼者を斬りなさい」

「おい、冗談ぐらい軽く流せよ!」


二人は言い合いを始め、こっそり宮殿をでるつもりが目立っている。


「ユリウス、できるだけ早く王都を出ろ。いいな」

「アルステッド?」

「戦後故に、治安は悪い。勇者であるお前を利用しようとする輩、聖女の存在を良く思わない者だっているんだ。顔が知られていないから、ソフィアは安全だろうが…用心しろ」

「ありがとう」

「アルステッド様、本当にありがとうございます」

夜が明ける前に王宮を出るべきだと言い出したのはアルステッドだった。
長居すれば厄介ごとに巻き込まれる可能性も考え、真夜中に王宮を出て港に出ている船が一隻ある。


陸路で領地に戻るよりも、海から行く方が早く見つかりにくい為だ。

「念のため同じ馬車を走らせる。お前達の替え玉だ」

「そこまでする必要はありますか」

「安全のためだ。何もなければそれでいい。元気でな」

口数は少なくとも、誰よりも仲間思いのアルステッドは二人が無事に領地にたどり着き新しい生活ができることを心から願った。


二人は仲間に見送られながら馬車を走らせ、港に向かった。


「アルステッド、俺達はしばらく王都に留まるんだな」

「ああ、二人が無事領地にたどり着くまでの時間稼ぎだ」

「用心深く同じ馬車を用意しなければならない程ですの?」

「馬鹿二人はともかくあの二人の背後にいる似非聖職者を騙すには必要だ」


何事もなければいい。
そう思っていたが、アルステッドの予感は見事的中し、その数日後、宮殿は大騒動となるのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。

柚木ゆず
恋愛
 前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。  だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。  信用していたのに……。  酷い……。  許せない……!。  サーシャの復讐が、今幕を開ける――。

婚約破棄されました。あとは知りません

天羽 尤
恋愛
聖ラクレット皇国は1000年の建国の時を迎えていた。 皇国はユーロ教という宗教を国教としており、ユーロ教は魔力含有量を特に秀でた者を巫女として、唯一神であるユーロの従者として大切に扱っていた。 聖ラクレット王国 第一子 クズレットは婚約発表の席でとんでもない事を告げたのだった。 「ラクレット王国 王太子 クズレットの名の下に 巫女:アコク レイン を国外追放とし、婚約を破棄する」 その時… ---------------------- 初めての婚約破棄ざまぁものです。 --------------------------- お気に入り登録200突破ありがとうございます。 ------------------------------- 【著作者:天羽尤】【無断転載禁止】【以下のサイトでのみ掲載を認めます。これ以外は無断転載です〔小説家になろう/カクヨム/アルファポリス/マグネット〕】

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

【完結】婚約破棄だと殿下が仰いますが、私が次期皇太子妃です。そこのところお間違いなきよう!

つくも茄子
恋愛
カロリーナは『皇太子妃』になると定められた少女であった。 そのため、日夜、辛く悲しい過酷な教育を施され、ついには『完璧な姫君』と謳われるまでになった。 ところが、ある日、婚約者であるヨーゼフ殿下に婚約破棄を宣言されてします。 ヨーゼフ殿下の傍らには綿菓子のような愛らしい少女と、背後に控える側近達。 彼らはカロリーナがヨーゼフ殿下が寵愛する少女を故意に虐めたとまで宣う。這いつくばって謝罪しろとまで言い放つ始末だ。 会場にいる帝国人は困惑を隠せずにおり、側近達の婚約者は慌てたように各家に報告に向かう。 どうやら、彼らは勘違いをしているよう。 カロリーナは、勘違いが過ぎるヨーゼフ殿下達に言う。 「ヨーゼフ殿下、貴男は皇帝にはなれません」 意味が分からず騒ぎ立てるヨーゼフ殿下達に、カロリーナは、複雑な皇位継承権の説明をすることになる。 帝国の子供でも知っている事実を、何故、成人間近の者達の説明をしなければならないのかと、辟易するカロリーナであった。 彼らは、御国許で説明を受けていないのかしら? 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

(完結)本当に私でいいのですか?ーすっかり自信をなくした王女は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はバイミラー王国の王女グラディス。お母様の正妃は5年前、私が10歳の頃に亡くなった。数日前まではとても元気だったのに。民のことを思う賢正妃と敬愛され政務の多くの部分を担っていたお母様だった。 それに代わり正妃の座に就いたのは私と同じ歳の王子を産んだマミ側妃で、1歳年下のホイットニーも産んでいる。お父様である国王はお母様と婚約中から、マミ側妃と付き合っていたらしい。マミ側妃はヤナ男爵家出身で、正妃の立場になるとすぐに私のお母様の実家キッシンジャー公爵家に難癖つけて僻地に追いやった。お父様もそれを止めずにむしろ喜んでキッシンジャー公爵家を伯爵に降格したのだ。だから私には後ろ盾がすっかりいなくなった。お母様の生前にいた使用人も全て解雇される。 私の周りから一気に味方が消えていく。私はどうなってしまうの? 国は乱れ、隣国ムーアクラフトと戦争が起き、我が国は苦境に立たされ急遽停戦を申し出た。 「儂が最も大事にしている姫を差し出そう」とお父様は提案したらしい。そうしてホイットニーが行くことになったのだが、人質になりたくない彼女は私が行けばいい、とごねた。 だから、私はホイットニーの身代わりに嫁ぐことになった。お父様もマミ正妃も大賛成したからだ。 「もしホイットニーの身代わりだとバレたらきっと殺されるだろうから、あちらの国王とはあまり話すなよ」  お父様は無表情でそうおっしゃった。私はどうなってしまうの?  これは虐げられた王女様が幸せになっていくお話しです。 ※異世界のお話しでお金の単位は1ダラ=1円です。現代日本にあるような商品、機器、料理など出てくる場合あり。西洋風貴族社会ですが作者独自の世界です。R15ざまぁ。 ※誤字あったらすみません。教えていただけると助かります。

処理中です...