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拉致
しおりを挟む侍従に付き添ってもらい部屋に戻る途中考える。
(王太后様はもういいお歳だわ)
本当なら引退して穏やかな余生を楽しんでしかるべきなのに王妃不在の穴を埋めている。
国の行く末を憂いてのことだった。
表向きは平和を保っているがいつ他国と戦争になってもおかしくないのだ。
(側妃様はどうお考えなのかしら)
セラフィーヌの言い方からすれば仲がいいとは思えない。
貴族でも色々だった。
国に貢献する貴族がいれば自分の保身を第一に考える貴族もいる。
ルクレチアのように他者を踏みににじり己の欲だけを満たす人間もいる。
むしろそんな人間の方が多いことを知る。
(でも、解らないわ)
どうしてルクレチアにここまで恨まれるのか。
当初は義母として優しくしようと思った。
家族として接しようと努力をしたが、何が気に入らなかったか解らない。
(どうしてお母様をあそこまで嫌うの?)
姉であるユスティーナに対しての感情は家族に向けモノではなく敵を睨みつけるかのような表情をしていた。
母親の実家はすでに没落しているので詳しく知らない。
セルジオもあまり話さないし、聞こうにも聞けなかったのだ。
考えながら歩いていると微かに甘い香りがした。
花の香りとは異なる甘ったるい鼻につくような香りが漂っている。
ユリアが倒れていた。
「え?ユリア!!」
急いで駆け寄ると気を失っているようだった。
「どうしたのユリア…クリステル!」
その近くにはクリステルが倒れている。
「一体どうして」
倒れているのはこの二人だけでなく警備をしている近衛騎士もだ。
襲われた形跡もない。
(おかしい…)
急にゾクッと寒気がした。
ここは宮廷でも警備が厳しいと場所。
外は常に近衛騎士が守っているので侵入が難しい。
「侍従殿…むぐ!」
背後から誰かに布で口を隠される。
(これは薬!!)
ツンとした匂いと微かに甘い香りがする。
(息をしちゃだめ…)
解っているのに布で口元を抑え込まれ意識が遠のいていく。
「うっ…」
アレーシャはそのまま床に倒れこむ。
侍従の恰好をしたのは男はそのままアレーシャを連れて隠し通路から宮廷を出て行った。
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