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第三章.高潔の条件
26.第二王子の事情
しおりを挟む十年近く公の場に出てこなかった第二王子の登場に誰もが驚いた。
「ベアトリス嬢」
「ご機嫌麗しゅうございます陛下」
「うむ、大儀であった」
どういうことかまったく解らないかった。
「義姉上殿」
「はっ…はい」
さっきから何で私を義姉と呼ぶのだろうか。
「私はベアトリス嬢と同様に、幼い頃から精霊の加護を受け過ぎたことで病にかかっていました」
「えっ…」
「命は取り留めたものの、体は病弱で外に出ることも許されず…長い間生死の境を彷徨っていたのです」
「そんな!」
不治の病に侵されていたなんて知らなかった。
では、王族が強い加護を受ける犠牲になっていたということ?
「私は母の身分が低い故、自分の運命を受け入れました。家族の代わりに朽ちるのもいいと」
「そのような!」
「ですが、そんな時にベアトリス嬢に出会い、怒られましてね?自己満足に浸って悲劇のヒーローぶるのは気持ちいのかと」
「ベアトリス…」
なんと恐れ多い事を。
まだ幼かったのかもしれないけど不敬罪に値する行為なのに。
「私は、このまま生きていてもジルベルトの邪魔をしてしまう」
「兄上!」
「本来ならばジルベルトの方が王に相応しいと言うのに…私に遠慮しているのも知ってました。他の貴族も私を王族と認めはしない事は知ってました…」
そう言いながらちらりと見たのは元父だった。
「まさか…」
「そのまさかですわ。あそこで伸びている馬鹿女と一緒にこの愚かな男はニコル殿下を王族から切り離すべきだと進言してました。マリアナに至ってはニコル殿下の体が弱い事に関しての誹謗中傷三昧でしたの」
「何を!」
「証拠はありますわ。お茶会で堂々と言っていましたものね?」
「ああ、私も聞いている。私の兄を死にぞこないと何度も言ったのを耳にしているが?」
ベアトリスに同意するようにジルベルトが告げる。
幼い頃参加したお茶会でニコルを馬鹿にして、侮辱したことは今でも覚えている。
「確かに私は死にぞこないだ…身分も低いな?妾腹から生まれた王子は野蛮なのか?」
「そっ、そのような…」
「妹を殺そうとした姉は野蛮ではないのだな?」
ひゅっと息を飲む。
穏やかな表情が一変し、金縛りのような物に襲われるも、ニコル様は距離を詰める。
「優しく聡明な娘を虐待し続けたそなたは、何様だ…かつて婚約者がいながら、他の女に手を出して真実の愛とは笑い者だな」
「あっ…」
「捨てられた令嬢はその社交界の爪はじきにされ修道院に行かされ、その家は没落。人生を狂わされた者の犠牲に笑える」
「やめ…」
「社交界で貴殿達はこうよばれているのだよ…すべてを放り出した無責任な貴族とな?婚約者のいる男に手をだした不届き者と、堂々と浮気をして伯爵家の名を汚した恥知らず」
「あっ…」
そっと耳に囁きニコル様は追い詰めて行った。
そして最後に囁かれた言葉は聞こえなかったが、その場にしゃがみ込む父の姿を見て誰もが同情の視線を向けたのだった。
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