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第三章.高潔の条件
閑話1子爵令嬢の思い
しおりを挟むいい気味ですわ。
パーティー会場を見渡しながら、その場を去って行く彼女。
「アナスタシアお嬢様、作戦通りでございます」
「ありがとう。では、次の段階に入りますわ」
「かしこまりました」
使用人に告げて、私はイヤリングに触れながら連絡を取る。
「こちらアナスタシア。どうぞ」
『こちらナウシカ、作戦は抜かりありません』
互いにお揃いのイヤリングで連絡を取り合い獲物を取り逃がさないようにする。
「本日のお茶会は、多くの貴族が参加します。シャリエール家は義務として参加しなくてはなりません」
『ええ、絶好の機会ですわ』
先日の事件でブライトンは強制退学となりましたが、マリアナは未だ席を置いている状態です。
本来なら停学処分になり、反省部屋に送られるのですが。
あの女が反省なんてするものですか。
「簡単に退学なんてさせないわ。学園で絶望させてやりますわ…忘れませんわよ」
アナスタシアは以前王宮にてマリアナに屈辱的な事を言われたことを根に持っていた。
「泥棒猫だと私の母を侮辱した罪、そしてなんの努力もなく運だけでのし上がったと馬鹿にした事は死んでも忘れませんわ!」
「アナスタシアお嬢様」
「ばあや、私は平民ですが…貴族の一員になるべく必死で努力しましたわ」
「はい…存じております」
血のにじむような努力を重ねて来た。
けれどブルジョワ階級の私は貴族社会のことには不慣れだった。
軽はずみに笑顔を見せて朗らかに笑うことははしたない事だったなんて知らず。
息の詰まる社交界で笑いものにされてしまった。
お気に入りのお母様が作ってくださったあの帽子。
それすらもみすぼらしいと馬鹿にされたのだから。
我が商会は服飾店を主に商売としていた。
でも、最初から服を売っていたのではなく、帽子を売っていた。
帽子のデザインはお母様して、私はお母様が作る帽子が大好きだった。
平民の間ではお母様の作った帽子は大人気で、貴族のお客さんもいる。
貴族でなくとも家が裕福で資産家だったことからいずれ必要になると言って最高の教育を受けさせてもらい、そして商会が成功し、騎士団に多額の寄付をしたり慈善活動をしていた功績が認められ貴族になったはいいけど。
息が詰まり、相手を蹴落としのし上がる人間ばかりに嫌気が出した。
裕福なのをひけらかすのが貴族なのか。
下町には貧しい人が沢山いて、彼らは貧しい平民に金貨一枚すら与えようとしない。
貴族に絶望する中、アナスタシアは下級貴族代表として第三王子の婚約者候補に選ばれ、マリアナと顔合わせをする機会を与えられた。
最悪の形で。
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