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第一章.婚約破棄騒動
16.誤り
しおりを挟む顔を俯かせる少女に私は居た堪れなくなった。
怯えて当然だろう。
大勢で囲まれ罵倒され、理不尽な責め方をされたのだから。
「この度は誠に申し訳ございません」
「えっ…あの」
私は貴族として、そして姉の事で嫌な思いをさせてしまった事を心から詫びた。
噂なんて信憑性はない。
偽りをさも真実に塗りかけるのがほとんどだから。
社交界では普通にある。
「私は、オリヴィア・シャリエールでございます」
「あっ‥はい、存じております」
私の事を知っていたんだ?
なんだか以外。
いや、ある意味では有名だったかもしれない。
「学園でも私の事はお耳にされているのですね。ならば、どうか頭をお上げくださいな。私は魔力も低く加護も待たぬ身…畏まられることはありません」
「そっ、そんな!」
どうして泣きそうな顔をするのかしら?
これまで私は貴族だけでなく平民の方にも下目に見られて来た。
使用人だって私を馬鹿にしているのは知っている。
けれど、仕方ないと思っていた。
「どうか、お使いになってください」
「はっ、はい、ありがとうございます」
ハンカチを差し出す涙目になりながらもふんわりと笑った。
――可愛い。
この時、私は天使がいると思った。
アナスタシア様とは違った可憐さを持つ少女で、思わず守ってあげたくなるような少女だった。
「お名前を教えていただけますか」
本来貴族としては膝を折るのは間違いかもしれない。
でも、ここで怯えさせてはならない気がした。
それに、私は彼女に対して悪い感情を抱けないでいる。
その理由は解らないけど。
「マリア・エステートと申します」
とっても知的な名前だった。
「そう、とっても素敵なお名前ですね」
「ありがとうございます」
とって温かな光。
私は魔力が低いけど、魔力を色として判別できる。
とっても綺麗な輝きだった。
きっと、優しい心根を持った人なのかもしれない。
「これから同じ生徒会役員としてよろしくお願いしますね」
「はっ…はい、こちらこそよろしくお願いします」
叶うなら仲良くなりたいけど。
でも、彼女に嫌がらせをしたのは姉の友人。
姉が指示したか解らないけど、遠回しにそうなるようにしたとしたら?
だとしたら私は…
姉を許せない。
とても胸がざわめく。
心の奥底に隠していた物が溢れる。
「大丈夫ですか、オリヴィア」
「はっ…はい」
この時からなのかもしれない。
私の中で変わり始めた心の変化。
そして、彼女とのこの出会いがやがて多くの人を巻き込んだ大騒動が起きる事となることになるのだった。
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