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第一章
閑話4保護者
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時は少し遡り、厨房にて。
「本当に困りましたわね」
ふぅーとため息をつくマーサは困っていた。
「どうしました?」
「あら、シド」
老執事のシドが声をかける。
「奥様と旦那様の事ですか?」
「ええ、そうなのです」
マーサの目下の悩みはアレクセイの事だった。
「若い侍女達がアンネローゼ様の事を話していまして」
「それは…」
狭い邸などので内緒話なんてしてもすぐに聞こえてくる。
シド自身も若い侍女達が噂をしているのは耳にしているので困っていた。
「奥様は勘違いをなさっているようで…」
「ご自分はあの馬鹿娘の身代わりと思われているでしょうな」
「知ってましたのね」
「ええ」
再びため息をつくマーサはどうしたものかと考え込む。
この度の婚姻は決して政略的な物ではないのだが、沙良だけが勘違いをしていた。
「女性が苦手な坊ちゃまが初めて恋をした女性がサラ様でした。しかも、命の恩人」
「ええ、病で騎士を止めざる得ない状況にあった坊ちゃまは最後の死に場所として戦場を選ばれたのです。ですが、その坊ちゃまを救ってくださったのがサラ様です」
まだこの国では医療技術が発達しておらず、聖魔法でも穢れを完全に浄化することはできなかった。
故に治癒魔法とポーションだけが唯一の頼みの綱だったが、それでもダメだった。
医師からは見放され、アレクセイはどれ程傷ついたか解らない。
そんなアレクセイを見放したアンネローゼに二人は怒りを覚えるよりも失望した。
そんな折の出来事だった。
沙良がアレクセイの前に現れたのは。
「顔にも傷が残り、体も酷い状態でしたのに…あの方は坊ちゃまの体を労りったと聞きますわ」
「献身的な看護で坊ちゃまを生死の境から呼び戻されました。惚れるなという方が無理でしょう」
瘴気の穢れに合うまでは多くの令嬢が言い寄っていた。
いざ、アレクセイが負傷したとなると近づかなくなったのだ。
「サラ様だけでした。坊ちゃまの為に怒ってくださった方も」
マーサは沙良が貴族の医師に怒鳴り散らした事も聞いていており、感激した。
我が子同然に愛思っているアレクセイの命と心を救った女性。
聞けばリシュベール侯爵家の養女と聞きいた時は驚いたが、同時に悔しかった。
アンネローゼではなく沙良が婚約者ならばどれ程良かったか。
「沙良様は何を勘違いしたのか、アレクセイ様があの馬鹿娘を好いていると思っているのです」
「坊ちゃまはちゃんとおっしゃっておられないのでしょうか?」
「恋愛の機微に疎い方ですわよ?」
マーサの言う通りちゃんと誤解を解いておらず、沙良は誤解をしている事にアレクセイは気づいていなかった。
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