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第一章

13疫病神

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音もなく突然現れたクリスチャンに沙良は身構えた。

「なっ、何処から!」

「ここからじゃ」


よく見ると窓が開いていた。
勝手に人の邸に侵入して来た老人を冷たい目で見た。

「悩んでおるのぉ?」

「誰の所為です」

「悪いことはしておらんぞ?これでお前は後ろ盾を得られるし、簡単には手を出されんじゃろ?」

本人は、罪悪感の欠片もないようだった。
顔を見たら恨み言の一つぐらい言ってやろうと考えていたが、一発拳骨でも落としたくなった。


「やり方にも順序があるでしょう…第一」

「あー、お前の恋愛論は良いぞ?古臭いしな」

(この爺!)

本気で悩んでいるのに、相手にもしないクリスチャンに腸が煮えくり返る。


「恋人のいる人と結婚なんてありえません」

「ん?恋人?」

「何を呆けているんです。アンネローゼ様に決まっているでしょう」


重いため息をつきながら告げるも、クリスチャンは頭を抱えた。


「あれとは政略的な婚約じゃぞ?」

「それは表向きでしょう?アレクセイ様は少なくとも、彼女を思っているようです」

「お前、本当に鈍いの?医術は宮廷医師顔負けというのに…仕事以外は頭が回ってないのか」

「失礼な!」


平均的な頭脳だと思っている。
確かに天才的な頭脳を持ち合わせていないが、馬鹿と言われるなんて心外だった。


「お前、今まで恋愛の一つもしてこなかったんじゃな?まぁ、行き遅れだしのぉ?」

「私の国では結婚適齢期はここと違うんです!私の歳で独身貴族います…きっと」

自分で言っていて悲しくなった。
仕事に精一杯で一人様だった沙良は彼氏がいたことがない。

出会いの場でも、引き立て役か、数合わせでしかなかったのだから。

「まぁ、泣くな。アレクセイはいい男じゃぞ?」

「私とじゃ月とスッポンなんですけどね」

「そこまで言うことはなかろう?」


慰めようとしているのが解りやすかったので余計切なくなる。


「大体、頭平凡、容姿平凡、経歴中の下の私とあんなイケメンさんとじゃ釣り合わないわ!しかも性格まで良いと来た!どうしてくれるんです!」

人間だれしも欠点があると聞くけど、アレクセイに欠点らしい欠点が見えなかった。

「あれも欠点は多いぞ?女性の扱いがなっておらん」

「欠点に入りません」

あれだけ容姿が整っていれば仕方ない事ではないかと思う。

「剣馬鹿じゃ」

「騎士の誉れじゃないですか」


仕事人間の沙良からすれば素晴らしいと思った。
騎士として仕事熱心で真面目の何処が悪いのかと思う。


「不器用」

「真面目なだけです。気遣いのできる人です」

「もういいわぃ、お前があれを慕っているならお前が幸せにしてやれ!」

色々と欠点を言ってもすべて却下する沙良に呆れて自棄になるクリスチャンだったが、その言葉にムッとする。


「そんなの傲慢だわ」

「何?」

「幸せって、誰かに与えてもらうものじゃないもの!アレクセイ様は自分でしあわせになるんです…幸せにしてやるなんて傲慢よ」


人に与えられた幸福に意味がはない。
幸せも不幸もその人の考えで変わって来る。

何より自分の努力次第で幸せになれるのだと言うのが沙良の考えだった。



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