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第一章
12乳母
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結婚式を挙げて一週間から特に変化はない。
……はずだった。
しかし、邸に仕える少ない使用人達は浮足立っていた。
二人は正式な夫婦の契りをしたわけでもなく、夜は共に過ごして話をしているだけなのに、勝手に想像を膨らませる使用人達は今日も噂話をする。
「旦那様は最近お帰りが早いですわね」
「それはそうですわ。新婚ですもの。奥様との時間を作るために仕事もできるだけ早く終わらせているそうですわ」
「まぁ!やっぱり…あの、女性が苦手な旦那様は毎晩奥様に愛を囁くぐらいですもの」
何も知らない使用人達は今日も楽しそうに噂話をしている。
(いや、愛って…)
しかし、その当人が聞いているとは知らずにさらに続ける。
「王宮に努めている侍女も申していましたわ。最近の旦那様はさらに磨きがかかっているとか」
「一時はどうなるかと思いましたわ。アンネローゼ様の…」
「ちょっと!」
一人の侍女が思い出したように告げようとした時だった。
「何をくっちゃべっているの!仕事なさい!」
「申し訳ありません!」
「失礼します!」
年配の侍女が注意をして、持ち場に戻るように注意をした。
「マーサ」
「奥様、お気になさることはありません」
マーサ・サリエル。
アレクセイの乳母でもあり、カメリス家を長年に渡って支えて来た優秀な侍女でもあった。
「アレクセイ様の奥方様はサラ様だけでございます」
「マーサ、私は気にしていないわ」
通常なら、互いの家から使用人を連れてくることは可能だが少数のはずだったが、カメリス家からは信頼できる侍女を数名派遣してきたのだ。
その理由は、沙良を良く思わない者が多くいる事と。
不名誉な噂が流れた時に、きっちり対処できる侍女が必要との事だった。
「マーサ様、申し訳ありません」
「クレア、貴女が悪いわけではありません。ですが気を付けなさい」
既に老婆と言われる年齢でありながらもマーサは貫禄があった。
噂話をしていた侍女達は、沙良を悪しざまに扱う気はなかったのだが、厳しいマーサは些細な事も許さなかった。
「マーサ、いいのです。彼女に悪気はないですし」
「なりません奥方様。このような事を許しては…奥方様はこの邸の女主なのです」
マーサは少しの隙を許せば、沙良の立場が危ぶまれることを心配していた。
「アレクセイ様の奥方はサラ様だけなのです」
何度も強調しなくいぇも解っている。
なのに、マーサは常に言い続けていたのだった。
気を使ってくれているのだろうかと思う沙良は、申し訳ない気持ちになった。
「なんだかな…」
期限付きの妻だなんて口が裂けても言えない。
「本当の事を言ったらどうなるのかな」
「ほぉ、言ってみればいいじゃろ」
「言えるわけないでしょ…は?」
部屋で一人項垂れている沙良は第三者の声が聞こえ振り返ると。
この結婚を仕組んだ人間が現れた。
……はずだった。
しかし、邸に仕える少ない使用人達は浮足立っていた。
二人は正式な夫婦の契りをしたわけでもなく、夜は共に過ごして話をしているだけなのに、勝手に想像を膨らませる使用人達は今日も噂話をする。
「旦那様は最近お帰りが早いですわね」
「それはそうですわ。新婚ですもの。奥様との時間を作るために仕事もできるだけ早く終わらせているそうですわ」
「まぁ!やっぱり…あの、女性が苦手な旦那様は毎晩奥様に愛を囁くぐらいですもの」
何も知らない使用人達は今日も楽しそうに噂話をしている。
(いや、愛って…)
しかし、その当人が聞いているとは知らずにさらに続ける。
「王宮に努めている侍女も申していましたわ。最近の旦那様はさらに磨きがかかっているとか」
「一時はどうなるかと思いましたわ。アンネローゼ様の…」
「ちょっと!」
一人の侍女が思い出したように告げようとした時だった。
「何をくっちゃべっているの!仕事なさい!」
「申し訳ありません!」
「失礼します!」
年配の侍女が注意をして、持ち場に戻るように注意をした。
「マーサ」
「奥様、お気になさることはありません」
マーサ・サリエル。
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「マーサ様、申し訳ありません」
「クレア、貴女が悪いわけではありません。ですが気を付けなさい」
既に老婆と言われる年齢でありながらもマーサは貫禄があった。
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「マーサ、いいのです。彼女に悪気はないですし」
「なりません奥方様。このような事を許しては…奥方様はこの邸の女主なのです」
マーサは少しの隙を許せば、沙良の立場が危ぶまれることを心配していた。
「アレクセイ様の奥方はサラ様だけなのです」
何度も強調しなくいぇも解っている。
なのに、マーサは常に言い続けていたのだった。
気を使ってくれているのだろうかと思う沙良は、申し訳ない気持ちになった。
「なんだかな…」
期限付きの妻だなんて口が裂けても言えない。
「本当の事を言ったらどうなるのかな」
「ほぉ、言ってみればいいじゃろ」
「言えるわけないでしょ…は?」
部屋で一人項垂れている沙良は第三者の声が聞こえ振り返ると。
この結婚を仕組んだ人間が現れた。
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