氷の騎士様が凍っておらず甘すぎる理由~騎士の妻が嫌だと駆け落ちしたのに今さら返せと言われても困ります!

ユウ

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第一章

閑話3転機

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アンネローゼ失踪事件はカメリス家も他人事ではなかった。


しかし、婚約者であるアレクセイは他人事だった。
あの世間知らずのお嬢様が一人で失踪なんてできるわけがない、大方協力者がいたに違ない。


血眼になって探しているアンネローゼの両親には気の毒だと思うが。
アレクセイは婚約解消になっても痛くもかゆくもなかったし、そもそも不本意だった。

何よりこの婚約はアンネローゼの両親のリシュベール伯爵家が望んだようなものだったからだ。


世間はあの氷の騎士と名高いアレクセイの心を溶かしたなどと言われているが大いなる誤解だった。


騎士として、アンネローゼの安否は気にしているが、個人的な感情はない。


「ん…こんな寒い季節に薔薇が」

「本当だ」

ふと足元を見ると一輪の白薔薇が咲いていた。


「美しいな…」

「とかなんとか言いながら、サラみたいとかいうんじゃないだろうな」

「彼女はもっと美しい」

ゴン!と壁に頭をぶつけるジェイド。
既に天然は凶器だったのだが、本人にその自覚はない。


「はぁー…どうして彼女なんだ」

「そんなに好きなら、告白して恋人にでもなればいいだろうが」


「馬鹿を言うな。軽薄な真似ができるか」

血が繋がらないとはいえ、リシュベール伯爵令嬢は沙良と従妹関係になる。

真面目なアレクセイは不誠実な真似はできなかった。


「この思いは胸に秘めるだけでいい」

「お前、あんだけ恋愛事から逃げていた癖に…」

ブツブツ文句を言うジェイドの言葉などアレクセイには聞こえていなかった。


「婚約が白紙にならないなら、もしかしたらサラが婚約者になるんじゃないのか?」

「そんな都合のいい話があるわけないだろう」


この時は冗談半分に思っていたが…


「アレクセイ、先ほど元老院がいらっしゃった」

「はい?」

「リシュベール家との婚約は続行だ」

「父上?」


いきなり呼ばれたと思えば、何を言っているのか理解できなかった。

「しかし、当のアンネローゼ嬢は行方知らずです」

「ああ、彼女との婚約は白紙になるが…リシュベール家の令嬢であれば問題ない」

それは遠回しにアンネローゼでなくても良いと言うことになる。

「ですが、アンナマリー嬢はまだ幼く成人もしておりません」

「馬鹿を言うな、お前を少女趣味ロリコンにする気はない。明らかに犯罪であろう」

「父上…」

カメリス辺境伯爵の言葉に傷つくアレクセイ。


「リシュベール侯爵家のご令嬢、サラ様だ」

「は?」

「まだ正式に養女になったわけではないが…」


沙良が新たな婚約者になると聞かれ固まった。


「お前、サラ様に懸想しているそうだな」

「なっ!」

「女性が苦手で逃げ回っているお前にとってが隕石が落ちるぐらいの事だ。幸い、元老院の一人、公爵様が口添えしたくださったので問題ないだろう」

無表情のカメリス辺境伯爵だったが、眉が下がっているあたり嬉しそうだった。


「我がカメリス家は北の辺境地を守護する一族だ。故に清楚なだけの温室育ちの令嬢では務まらん。お前は三男であり貴族としてではなく騎士として生きるならばなおのことだ」


長男は跡継ぎになり次男は補佐になる。
三男以下は独立して己の身一つで生きて行かなくてはならないので、貴族であっても質素で慎ましやかな生活をしなくてはならない。


その為には夫を支える器量と、忍耐力と聡明さが求められる。


「サラ様は騎士の妻に申し分ない。何よりお前の恩人だ」

「はっ…はい」

「何より我が家は自由恋愛主義だ。常に戦場に身を送故にな…」

心から信頼できる伴侶でなくては、長くともにいることはできない程の過酷な環境に身を置いていたからこそ政略結婚を強いることはなかった。

ただし、何時までも伴侶が見つからないのであれば周りが煩いので蟻が一つの餌に集う様に寄って来るので先手を打たなくてはならなかった。


「しかし父上…彼女の気持ちはどうなるのです」

「貴族の婚姻とはそうなのだ。特に宮廷貴族はな…」

嬉しいと思う反面、沙良の気持ちを考えると罪悪感を抱く。


「お前も騎士ならば、妻の心を掴め…惚れさせるぐらいの根性を見せろ」

「私が…ですか」

「そうだ!良いか、サラ様の心に寄り添うのだ。あの方はこの国の事情でお辛い思いをされている。ならばお前が温もりとなり、杖となり、道しるべとなり、灯となるのだ」


カメリス辺境伯爵の言葉は重かったが、アレクセイは覚悟を決めた。

「承知いたしました。彼女を唯一の伴侶としてお守りします」


一生に一度の恋。
叶うならば生涯を共にしたいと思ったアレクセイはこの婚姻を承諾したのだった。


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