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第一章
閑話1戦場に咲く花
しおりを挟むそれは今から三か月も前の話。
最近王都付近に魔獣が襲って来ると言う報告を受け、第二騎士団は王命により森に向かっていた。
最近は王都内に敷かれた結界が何時壊れても解らない状態だった。
白魔導士の力も弱まり、このままでは瘴気が溢れてしまう。
既に瘴気の所為で病にかかった者も少なくない。
なんとしてもこれ以上、瘴気を広がらせないようにしなくてはならなかった。
しかし、連日徹夜で魔獣を戦い続けた第二騎士団は体力も限界だった。
既に絶滅の状況下にある最中、先陣斬って戦っていたアレクセイも負傷してしまった。
「隊長!!しっかりしてください!」
「もう彼は戦場に出ることはできないでしょう」
医師の診察ではアレクセイは剣士生命を絶たれたも同然だった。
「そんな…待ってくれ。彼は騎士だぞ」
「お気の毒ですが、手の施しようがありません。それよりもこれ彼を療養施設に移すべきです。病が伝染したら大変ですので」
「お前はそれでも医師か!」
当時、聖クラリス騎士団として同行していたジェイドもあんまりは発言だと思った矢先だった。
「貴方、医師としての自覚はあるんですか」
凛とした声が響いた。
「何だね君は」
「患者の前で言う発言ではありません。ご自分に自信がないからと言ってそのような失言をするとは、医療従事者失格ですわ」
「なっ…無礼な!」
この時、誰もが息を飲んだ。
相手は貴族上がりの医師なので、他の医師も大人しくしていた。
しかし、この時立ち上がったのは女性で一人で同行した看護師の沙良だった。
当時から看護師は身分が低く、奴隷や娼婦がする仕事だと言われており。
売春婦のような行為をする者だと思われていたので、発言権もあるはずもなかった。
「無礼なのはどっちですか。貴方はもはや医師ではありません。この場にいるにはふさわしくないわ」
「おのれ…娼婦風情が!」
「治療をする気がないなら早々にお引き取りください」
「ハッ、どうせこの男は死ぬんだ。助かっても寝たきりで生きる屍だ…患者を死なせたと責任を取らされて思い罰を受けるだろうよ」
彼の頭の中には、患者を救えなかったときに都合よく責任を押し付けられる人物が現れたぐらいにしか思っていない。
助ける気なんてなかったのだ。
それを聞いた周りの騎士達は殺意を抱く。
アレクセイは戦闘に立ち、部下を守りながら戦った勇敢な騎士だった。
なのにここまで言われようは許せなかったのだが…
「どなたか、この似非医師やを摘まみだしてください!患者の負担になりますわ!」
「はっ!」
黙っていた第二騎士団の者は即座にその医師を摘まみ出した。
「どうする気だ」
「決まっているでしょう?助けます」
「しかし…」
既に重傷で、持参したポーションですら飲む力がない状態では手の施しようがない。
「ポーションが飲めないから治療ができないなんて言い訳は許されません。生きたいと望む患者がいるなら、最善の道を探す…それが私達の仕事です」
この時ジェイドは目が覚める思いだった。
医師として現場を離れ薬の研究に心血を注ぎながらも、忘れていた情熱を思い出した。
医師としての勤め、誇りを思い出す。
「灯を消さないように…お願いします」
「はっ…はい」
こうして真夜中にまで及ぶ看護は続き、瀕死の状態のアレクセイのみならず他の騎士達の看護を三日三晩寝ずに続けた結果、彼等は回復に向かった。
そしてポーションを飲むまでに回復した後も、常に灯を灯し続けた沙良はアレクセイを励まし続けた。
「天使だ…」
「は?」
傷ついた騎士達の為に献身的な看護を続ける沙良を見てアレクセイが放った言葉にジェイドは耳を疑った。
「お前、何言ってんだ?頭がおかしくなったか」
「俺の前に美しい聖女がいる」
「おい!正気か…よほど具合が悪いのか!」
この時、剣一筋に生きて来た男が恋をした。
ジェイドは友人の奇行に眩暈がしたのだが、これがすべての始まりとなるのだった。
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