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第一章
5遅れて登場
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邸の前に慌ただしく聞こえる馬の足音。
まるで地震がのようだと思った程に地面が揺れている。
「あの馬鹿」
「こんな日にまで」
長男のエアハルトと次男のフィリオは呆れていた。
カメリス辺境伯爵と夫人はもう放心した状態で、慌ただしい足音と共に部下を一人従えたまま現れる。
「遅くなりり、申し訳ありません!」
乱暴に開けられた扉と共に現れたのは騎士団の服を着た銀髪の髪に深い青色の瞳をした青年だった。
「アレクセイ…お前という奴は!」
「よりにもよって正装ではなくその恰好で来るとは」
せめて正装だったらまだよかったものを、戦場を駆け回る時の騎士服で来るとは思わなかった家族は放心してしまった。
沙良は隣を見ると、ギルバートとレオノーラも絶句していた。
(ああ…これはまずいわね)
遠征先から大急ぎで来たのだろうけど、貴族同士の見合いでは色々問題だった。
とは言え、戦場というものを知らない者だったらの話だ。
沙良は、クリスチャンに無理やり戦場に派遣された時に現場の酷さを知っていたから特に気にしない。
(それに、彼も不本意だし…)
望んだ婚姻ではなかったのに、誠意を持ってくれたのだから咎める必要はないと思った。
「ああ…どうして貴方はそうなのです。母は…母は悲しすぎて!」
「アレクセイ…」
カメリス一家を気の毒そうに見るギルバートレオノーラ。
根っからの軍人体質なのかもしれない。
騎士として理想的かもしれないが、これでは婚約もまとまらないかも知れない。
「お待ちください、アクセレイ様は…」
傍にいた部下と思われる青年が言葉を放とうとした時だった。
「遅くなり申し訳ありません。花束をご用意できなかったので、戦場で摘んでまいりました。どうかお受け取りください」
「えっ…」
膝を着き花束を差し出す。
店で売っているような物ではなく自分で摘んで束ねたのが解る程の不格好であった。
アレクセイがそっと花束を差し出した花は王都では見ることができない百合の花だった。
「この季節では咲いていないのに…わざわざお心づかいをありがとうございます」
花束を貰うのは初めてだったので沙良は嬉しくなった。
(…って、何喜んでいるの私!)
本来ならばこの花束を受け取るのはアンネローゼだったはずだ。
喜んではいけないと思いながらも、折角なのでお礼を伝えることにした。
「とにかく席に座りなさい」
「はい」
沙良の真向いに座り、改めて挨拶が行われた。
「アレクセイ・カメリスと申します」
「サラ・リシュベールと申します」
双方の家族が見守る中、ようやく見合いが始まった。
しかし見合いと言えど、既に結婚することが決まっているので今日は顔合わせだけだった。
何を話せば解らない沙良だったが、視線が気になって仕方ない。
(みっ…見られている!何で?)
別に睨みつけているようではなく爽やかに微笑んでいるが、その微笑みが怖かった。
顔で笑いながら内心はどうもっているかなんて解らないので沙良も顔を引きつらせながらも無理やり笑ってその場を凌いだのだった。
まるで地震がのようだと思った程に地面が揺れている。
「あの馬鹿」
「こんな日にまで」
長男のエアハルトと次男のフィリオは呆れていた。
カメリス辺境伯爵と夫人はもう放心した状態で、慌ただしい足音と共に部下を一人従えたまま現れる。
「遅くなりり、申し訳ありません!」
乱暴に開けられた扉と共に現れたのは騎士団の服を着た銀髪の髪に深い青色の瞳をした青年だった。
「アレクセイ…お前という奴は!」
「よりにもよって正装ではなくその恰好で来るとは」
せめて正装だったらまだよかったものを、戦場を駆け回る時の騎士服で来るとは思わなかった家族は放心してしまった。
沙良は隣を見ると、ギルバートとレオノーラも絶句していた。
(ああ…これはまずいわね)
遠征先から大急ぎで来たのだろうけど、貴族同士の見合いでは色々問題だった。
とは言え、戦場というものを知らない者だったらの話だ。
沙良は、クリスチャンに無理やり戦場に派遣された時に現場の酷さを知っていたから特に気にしない。
(それに、彼も不本意だし…)
望んだ婚姻ではなかったのに、誠意を持ってくれたのだから咎める必要はないと思った。
「ああ…どうして貴方はそうなのです。母は…母は悲しすぎて!」
「アレクセイ…」
カメリス一家を気の毒そうに見るギルバートレオノーラ。
根っからの軍人体質なのかもしれない。
騎士として理想的かもしれないが、これでは婚約もまとまらないかも知れない。
「お待ちください、アクセレイ様は…」
傍にいた部下と思われる青年が言葉を放とうとした時だった。
「遅くなり申し訳ありません。花束をご用意できなかったので、戦場で摘んでまいりました。どうかお受け取りください」
「えっ…」
膝を着き花束を差し出す。
店で売っているような物ではなく自分で摘んで束ねたのが解る程の不格好であった。
アレクセイがそっと花束を差し出した花は王都では見ることができない百合の花だった。
「この季節では咲いていないのに…わざわざお心づかいをありがとうございます」
花束を貰うのは初めてだったので沙良は嬉しくなった。
(…って、何喜んでいるの私!)
本来ならばこの花束を受け取るのはアンネローゼだったはずだ。
喜んではいけないと思いながらも、折角なのでお礼を伝えることにした。
「とにかく席に座りなさい」
「はい」
沙良の真向いに座り、改めて挨拶が行われた。
「アレクセイ・カメリスと申します」
「サラ・リシュベールと申します」
双方の家族が見守る中、ようやく見合いが始まった。
しかし見合いと言えど、既に結婚することが決まっているので今日は顔合わせだけだった。
何を話せば解らない沙良だったが、視線が気になって仕方ない。
(みっ…見られている!何で?)
別に睨みつけているようではなく爽やかに微笑んでいるが、その微笑みが怖かった。
顔で笑いながら内心はどうもっているかなんて解らないので沙良も顔を引きつらせながらも無理やり笑ってその場を凌いだのだった。
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