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序章
5流される先
しおりを挟む真冬の海は針が肌に刺さる程の痛みだと聞く。
デブなら少しは痛みが和らぐのだろうかなんて馬鹿な事を考えていた。
なのに変だ。
肌に刺さる痛み何てなかった。
むしろ温かい。
さっきまで痛かった傷はどうした?
俺は死んだのかな?
体が軽く感じる。
ゆっくりと目を開けると光が見える。
その光に手を伸ばすと。
「おじいちゃん?」
光の中からおじいちゃんが現れる。
光に触れると温かくておじいちゃんみたいだった。
この優しい温かさが好きだった。
『スキル獲得』
何この声。
『ユニークスキル獲得』
声が聞こえる。
『賢者を獲得しました』
聞こえ続ける声が少しうるさく感じる。
『スキル獲得!治癒者獲得』
このナレーター的声はゲームのあれ的なものだ。
ついに俺は頭がおかしくなったのかな?
『新たなスキル獲得、治すモノか壊すモノか選択してください』
何だこの選択は。
どちらかと言われれば一つに決まっているだろう。
俺は壊されたら治す側だ。
これまで幾度なくあの二人に大事なものを壊されたか。
「治すモノで」
『本当に壊さなくていいんですか』
「ああ」
『壊してやればいいのに』
いや、何このナレーター。
ゲームのナビじゃないの?
なのに何でこんな怨念こもってんの?
「俺は何も壊したくない。誰も傷つけたくない…誰かを傷つけるぐらいなら…」
そうだ。
誰かを泣かせるぐらいならそんなものいらないよ。
だって悲しいじゃない。
傷つけられたことがあるから傷つけたくない。
悲しい思いをしたらから他の誰かを悲しませたくない。
「俺は誰も恨まない。憎しみと生きていくつもりはない」
おじいちゃんと約束したからだけじゃない。
俺は俺のために生きてく。
『獲得しました。賢者から大賢者に…そして白魔導士となります』
なんかさっぱり意味解らない。
とりあえず次目を覚ました時は――
「えっ?」
目を覚ました場所は森だった。
「いや、何で?あの世に来て真夜中の森って…」
暗くて明かりにもない。
そんな場所に俺はいた。
パキン!
枝が折れる音がして振り返ると。
「あっ…」
コスプレか?
ハロウィンはもう終わっているのに鎧をつけた男の子と女の子。
「きゃああ!オーク!」
「こんなところに何でオークが!」
いくら太っているデブだからって豚はないだろ?
しかもオークってゲームとかで出てくる豚の魔物じゃないか?
「誰がオークだ!」
「早く魔法を」
「えっ・・」
女の子が杖を振り、炎の蜥蜴が俺に襲い掛かる。
「わぁぁぁ!」
俺はすぐに逃げた。
これは夢か、悪夢なのか!
「黒髪?あれは魔族か!」
「ここで仕留めるわ」
何を言っているんだ。
日本人なら黒髪だろうに、何で俺に対して敵意を向けるんだ。
『攻撃しますか?』
「するわけないだろ!」
またあの声が聞こえる。
「とにかくノーだ!イエスなんて言わないからな」
炎の蜥蜴が俺の後を追いかけてくる。
でも、どうしていいか解らない。
死んだ先でもこの扱いって、俺はそんなに悪い事をしたのか!
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