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序章
2葬儀
しおりを挟む両親の言葉に悲しむ暇などない。
元よりおじいちゃんと両親の中は良くなかった。
その原因は俺だろう。
俺が家族に虐げられるのを見かねて何度も注意をした。
だけど表立って俺を庇うと両親は俺に暴力を振るうことが増えた。
決まっておじいちゃんが不在の時にだ。
言えばどうなるか解らない。
おじいちゃんは口で言っても駄目だと判断し、上手く立ち回るようにしてくれた。
例えば食事に関してだ。
料理を仕込まれ、食べる者がなかった時の為に食料も用意してくれた。
それでも嫌がらせは続く。
そんな俺におじいちゃんは常に言ってくれた。
「千早、負けるんじゃない。お前は優しい男になれ」
「おじいちゃん」
「力で相手をねじ伏せるような人間は最後は力で抑え込まれる…お前はそんな生き方をするんじゃない」
頭を撫でられながらいつも言われた。
「頼ってきた人がいれば助けてあげなさい」
「はい…」
「そして何時かお前を理解し愛してくれる人ができるだろう」
おじいちゃんたち以外にいるはずがない。
この見た目を好きになってくれるものかと思ったけど。
「千早、人間は歳を取れば醜くなる。だがな、姿が変わろうとも思ってくれる人がいれば…きっと」
あの時の言葉の意味は今も解らない。
だけどおじいちゃんとの約束だけは守りたかった。
だけどその約束を守り続けるのは過酷だった。
葬儀の日、身内の葬儀が行われた。
本来なら近所の人や元仕事の人達を呼んで弔うはずなのに。
「本当に無駄だ」
「なっ…止めて!」
灰となったおじいちゃんの骨を掴んだ父さんは木に投げた。
「そぉれ!枯れ木に花を咲かせましょう!」
「もういっちょ!」
弟と妹も一緒になっておじちゃんを。
「やめて!おじいちゃんを返せ!」
「口を開くな汚らわしい!」
「ああ!」
父さんに腹を蹴られ、骨壺に手を伸ばそうとするも母さんに手を踏まれる。
「アンタの所為で死んだのよ?」
「俺の…所為?」
「そうよ?我が家の疫病神!華麗なる一族にお前のような醜い出来損ないは要らないのよ!アンタなんて生まれてこなければよかったのに…私の子供は凛子と文彦だけよ!」
「うっ…」
「お前なんて生まれてこなければ!我が家の恥知らずが!」
「アハハハ!馬鹿じゃないの」
「死ねばいいのに!早く死んじゃいなよ!」
家族からの罵倒を繰り返されても何も感じない。
でもおじいちゃんの骨壺だけは。
「返せ…おじちゃんの骨壺。おじいちゃんの眠りを妨げるな!」
俺が家族から愛されないのは解っている。
今更愛されたいなんて思っていない。
でも俺を唯一愛してくれた家族を悪く言わないで。
なのに起きあがることもままならなかった。
「貴方、もうすぐ弁護士が来るのではなくて」
「ああ、これは捨てておけ。遺産にこいつは関係ない」
「そうね」
俺はそのまま放置され、体に鞭を打っておじいちゃんの骨壺を抱きしめた。
「帰ろうねおじいちゃん」
こんな場所におじいちゃんを置いておけない。
そう思いその場を去った。
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