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49アレクの正体

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押せ押せ状態では王宮の奥の部屋に連れていかれた。


「あの…私はどうなるの?」

「心配しないでくれ。取って食うわけじゃない」


そんなことを心配しているわけじゃない。
でも、嫌な予感がした。



「アレク!無事だったのですね」

「よくぞ無事で戻って来てくれた。息子よ」


息子…

国王と王妃の息子ってことは。


「アレク…」

「すまない。今まで黙っていて」


ああ、どうして気付かなかった私。
この国に来た時に気づくべきだったんだ。


「アレク…」


「兄上」


そしてもう一人。
これまた絵にかいたような王子様が現れた。


「貴女が聖女殿か」

「いえ…私は」


「いや、聖女殿では無礼だな。お名前をお教えくださるかな」

「はっ…はい。アンリ・シアリーズと申します」


「シアリーズ?あの素敵な商人貴族のご息女か」


パパよ。
貴女は他国で何をしたんですか。


他国の王太子殿下と懇意な関係になるなんて。


「私がまだ立太子する前のことだ。彼には悪い遊びを教わったんだ」

「悪い遊び…」


「今のうちに悪い遊びをしておくべきだと言って…楽しいことを色々とね」


本当に何をしたんだパパよ。

「気さくな人だった。人を楽しませるのが好きで、本当に良い方だった…そのご息女が我が国いらしてくれて心から嬉しく思う」


ふんわりと柔らかく笑う笑顔はアレクとそっくりだった。


「アレク、この国の王位継承者として命じる。彼女が何不自由なくこの国で過ごせるように」

「はい」


「王太子殿下!お待ちください。私はそのような気遣いは…」

そもそも、私にそこまでしていただく必要はない。

「聖女云々はさておきとして、貴女は私の命の恩人だ。せめてお礼だけはさせて欲しい。もし迷惑でなければこの国を好きになってくれると嬉しい」

「はっ…はい」


こんなことを言われて断られるわけがない。

アレクもそうだったけど。
この国の人は皆優しい人が多いな。


「皆さんはどうしてこんなに親切なんでしょうか」


「「「は?」」」

「私は加護を得ても大して役に立たないのに」


正直私は加護を得てもそれを使うための知識がない。
美人でなければ、貴族令嬢として振舞うこともできない世間知らずだ。

なのに国王陛下も王妃陛下も優しい目で…


あの国では私を見る目は汚いゴミを見るようだった。


「皆さんはちゃんと私の目を見て話してくださるんですね」


だから気づかなかった。
私が失言をしたことで祖国に対して彼らが何を思ったかなんて考えもしなかった。




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