百姓貴族はお呼びじゃないと言われ婚約破棄をされて追放されたので隣国で農業しながら幸せになります!

ユウ

文字の大きさ
上 下
19 / 119

15置き忘れた思い

しおりを挟む



「君以上に貴族令嬢の品格がある人はいない」


握られた手が熱かった。
指先から感じる体温が気恥ずかしくて、顔をあげることができなかった。


「私は百姓貴族令嬢だって…」

「百姓貴族…立派じゃないか。何も作れない貴族よりも立派だ」

「着飾るよりも農業が好きで」

「労働の美徳だ」


アレクは私のすべてを立派だと言う。
言葉の一言、一言にお世辞ではなく賛美の言葉が恥ずかしすぎた。


「君は行き倒れてた俺を助けてくれた。何も聞かず温かい食事をくれた」

「お腹すかせている人がいたら当然だよ」

「私欲の為しか動かない貴族を何人も見て来た。自分さえよければいい人間は多いんだ」


私にとってお腹を空かせている人がいれば手を差し伸べる。
当然の事だった。

この世で一番つらいのはご飯が食べられない事。

お腹がいっぱいならば、どんな辛いことでも耐えられる。
逆に空腹では人間、ろくなことを考えない。



だから――


「君の元婚約者は己の役目を放棄したんだ。婚約者を守れない男は最低だ」

「でもね…」

「王からお咎めななかったのか?」

「うん…」

「通常、貴族の婚約は勝手に破棄できないはずだ。ならば慰謝料は?」

「えっと、慰謝料変わりに土地と、父の遺品で…」

「は?」


私は何か間違ったことを言っただろうか?
アレクの表情がさっきから怖い。


「婚約破棄をしておいて、君から慰謝料を取るなんてありえない!」

「えっと迷惑料みたいな…」


私との婚約は望まない形だったらしい。
だから無駄に使った時間は返せないとのことだ。

私と婚約したせいで恥ずかしい思いをしたと言っていたし。

「恋人もいて…」

「もういい」

アレクを怒らせてしまった。

どうしよう。


「すまない。君を責めたいわけじゃない。ただ、あまりにも理不尽で…今すぐその男を殺してやりたい」

「ダメだよアレク!」

「君は傷ついたんじゃないか…」

「いや、全然」


傷つくほど関わってない。
嫌味をさんざん言われたけど基本、私は過去は引きずらない。


「私、まったく合わなかったし…関心がなくて」

「だとしても、君を否定し傷つけられたんだ」


何でだろう。
私よりもアレクの方が怒っている。


「傷ついたのかな?考えないようにしてたし…仕方ないって思ったから」

「君は期待をしなかった…でも、誠意を持って接したはずだ」


そうなのか?


少なくとも、当初はギョームと仲良くなれたらと思った。
折角のご縁だし、恋愛結婚ではなくとも互いに支え合える良き夫婦になれたらとも思った。


でも、結局無理だった。


そうか…


私は諦めてしまったんだ。
何をしても届かないから、無関心になってしまった。

だから農業に…




私の情熱はすべて農業に向けたんだ。



しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

こういうの「ざまぁ」って言うんですよね? ~婚約破棄されたら美人になりました~

茅野ガク
恋愛
家のために宝石商の息子と婚約をした伯爵令嬢シスカ。彼女は婚約者の長年の暴言で自分に自信が持てなくなっていた。 更には婚約者の裏切りにより、大勢の前で婚約破棄を告げられてしまう。 シスカが屈辱に耐えていると、宮廷医師ウィルドがその場からシスカを救ってくれた。 初対面のはずの彼はシスカにある提案をして―― 人に素顔を見せることが怖くなっていたシスカが、ウィルドと共に自信と笑顔を取り戻していくお話です。

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

【完結】婚約破棄? 正気ですか?

ハリネズミ
恋愛
「すまない。ヘレンの事を好きになってしまったんだ。」 「お姉様ならわかってくれますよね?」    侯爵令嬢、イザベル=ステュアートは家族で参加したパーティで突如婚約者の王子に告げられた婚約破棄の言葉に絶句した。    甘やかされて育った妹とは対称的に幼い頃から王子に相応しい淑女に、と厳しい教育を施され、母親の思うように動かなければ罵倒され、手をあげられるような生活にもきっと家族のために、と耐えてきた。  いつの間にか表情を失って、『氷結令嬢』と呼ばれるようになっても。  それなのに、平然と婚約者を奪う妹とそれをさも当然のように扱う家族、悪びれない王子にイザベルは怒りを通り越して呆れてしまった。 「婚約破棄?  正気ですか?」  そんな言葉も虚しく、家族はイザベルの言葉を気にかけない。  しかも、家族は勝手に代わりの縁談まで用意したという。それも『氷の公爵』と呼ばれ、社交の場にも顔を出さないような相手と。 「は? なんでそんな相手と? お飾りの婚約者でいい? そうですかわかりました。もう知りませんからね」  もう家族のことなんか気にしない! 私は好きに幸せに生きるんだ!  って……あれ? 氷の公爵の様子が……?  ※ゆるふわ設定です。主人公は吹っ切れたので婚約解消以降は背景の割にポジティブです。  ※元婚約者と家族の元から離れて主人公が新しい婚約者と幸せに暮らすお話です!  ※一旦完結しました! これからはちょこちょこ番外編をあげていきます!  ※ホットランキング94位ありがとうございます!  ※ホットランキング15位ありがとうございます!  ※第二章完結致しました! 番外編数話を投稿した後、本当にお終いにしようと思ってます!  ※感想でご指摘頂いたため、ネタバレ防止の観点から登場人物紹介を1番最後にしました!   ※完結致しました!

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

【完結】裏切っておいて今になって謝罪ですか? もう手遅れですよ?

かとるり
恋愛
婚約者であるハワード王子が他の女性と抱き合っている現場を目撃してしまった公爵令嬢アレクシア。 まるで悪いことをしたとは思わないハワード王子に対し、もう信じることは絶対にないと思うアレクシアだった。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています

春野オカリナ
恋愛
 エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。  社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。

処理中です...