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8ごちそうさまと記憶
しおりを挟む百姓の朝は早い。
例にもれず私の朝も早いのだが。
「早いな」
「アレク、何で起きているの?」
「習慣だ」
何故かアレクも起きていた。
「薪が必要だろう?」
「え?」
「それから木の実も」
なんてことだ。
朝食の準備の為に薪を取りに行かなくてはならないのに、既に用意してくれたなんて。
「アレクはできる男なんだね!」
「ん?この程度普通だろ?」
ギョームとは月とスッポンだ。
あの男は自分から何かをする気はまったくない。
してもらって当然という考え方だ。
通常、私達のような農業に勤しむ貴族は協力し合っている。
夫だから偉いとかはないのだが、あの男は常に有利に立ちたがる。
まぁ根っからの都会っ子の考えということか。
前世でも親戚の中には上京した後に結婚した後にこれ見よがしに夫が格上だと自慢する人がいた。
「火は…」
「火打金ならこっちに」
薪を用意して火の準備をしようとしたが、既に炎が灯っていた。
「これでいいか?」
「アレク、すごい!」
「そうか?」
本人はケロッとしているが、四大魔法の中で炎は稀だ。
攻撃魔法の中でも最も高度な魔法と言われているのだから。
対する私は魔力がほとんどない。
今までは魔法が使えなくても不自由は感じなかったけど周りは負け惜しみと言われてしまった。
「こんなのあまり役に立たないぞ」
「え?」
「炎で腹は膨れない。それに炎はすべて灰にしてしまう…少し怖い」
私の心を見透かされた気分だった。
魔法が使えない私にそれでいいと言われ少し驚いた。
「力はただ力だ。使い方によれば脅威になる」
「アレク?」
「俺は炎じゃなくて緑の魔法が欲しかったな。花を咲かせられる魔法」
「花を咲かせる魔法?」
戦闘には役に立たないのに、そんな魔法が欲しいなんて意外だ。
「荒れた地に花を咲かせるなんてロマンだ。俺は花を咲かせる魔法に憧れているんだ!」
目を輝かせる姿はまるで子供のようだった。
とても目がキラキラして、まるで水を得た魚のようだ。
「アンリ」
「なぁに?」
「そろそろいいんじゃないか?」
「あっ、本当だ」
焚火の前で用意していたお米が焚けそうだ。
「葉っぱに来るんだ葉っぱ飯…いいな」
「葉っぱ飯って言わないで」
鍋代わりに使っているのは葉っぱだ。
バナナの葉っぱによく似ているので使えると思ったらビンゴだ。
「この魚も旨そうだな」
「ちょうどいいかな」
ホイル焼き風にした。
キノコを沢山乗せて野菜も沢山なので栄養満点だ。
「美味いな…いくらでも食べられる」
「お茶飲む?」
「飲む」
用意しておいたお茶を差し出すと、アレクは清々しいまでに一気飲みをする。
昨日まではあんなに顔色が悪かったのに不思議だな。
食欲もすごいし。
まぁ気にしなくていいか。
特に気にすることなく食事を終えた私は片づけをしようとしたが…
「アレク?」
「片づけは俺がする。君は食事の準備をしてくれたんだ。不公平だろ」
「えっ…でも」
薪の準備から下準備までは全部してもらった。
私がしたことなんて調理だけだ。
「美味しかった。ごちそうさま」
「うっ…うん」
満面の笑顔に私は驚いた。
この世界でごちろうさまの作法を知る人は少ない。
だからなの?
『ごちそうさま』
私の記憶にある、ごちそうさまをしてくれた男の子。
「アンリ?どうしたんだ」
「えっ…」
「ぼーっとしている。具合でも悪いのか」
ふと既視感のようなものが…何で?
「体調が悪いなら横になった方がいい」
「大丈夫」
アレクにごちそうさまを言われたからなのか。
この時私は深く考えることはなかった。
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