1 / 29
プロローグ
しおりを挟む何所までも広がるモンゴル高原。
真夏の太陽にも負けず育つ姿は見事で、今日もうっとりと見つめていた。
「稲穂ぉぉ!今日もうっとりしすぎてねっちゅうしょうになるんでねーぞ!」
「じっちゃん…今日も…今日とて私の糧が」
「わーっちょるよ」
米沢稲穂。
農業をこよなく愛するアラサー。
田舎娘であり、彼氏はいない。
花より団子で、特に三度の飯は米が好き。
米さえあれば漬物でよし。
私の実家は由緒正しき農家だ。
農家に由緒正しきなんてあるのか?って?
日本人にとって米を作る人間が一番偉いに決まっている。
それが私の持論だ。
何故なら稲作の文化こそ天下なのだから。
日本人はその昔から主食は米だった。
近年、洋食が大流行しているが、日本人の体は米に捕らわれている。
故に米無しでは生きていけない。
なのに、米農家には厳しい世の中だ。
故に私の野望は。
「いつか米で世界制覇をしてやる!おー!」
世界一の米農家にすることだ。
「おい、稲穂がまた馬鹿なことをいっとるで?」
「放っておき…あいつ時々あほじゃ」
「せやから、また縁談なくなったんや」
ちなみにだが、私は恋人がないだけでなく先日の見合いも断られた独身貴族だ。
これで10回目のお断りを受けたのだ。
「じっちゃん!今日もモーツアルト弾くよ」
「おー頼むぞ」
美味しいお米になってもらうべくモーツアルトを弾く。
美味しくなってねと祈りながら私がじっちゃんと一緒に演奏する。
田舎娘であるが、実は演奏の心得があるのだ。
「おいしくなれぇー」
「おいしくなれぇー」
二人で演奏をしながら歌を歌う。
「超絶技巧を演奏しながら変な歌を乗せるの止めて欲しいんやけど」
「ほんまないわ…」
家族が呆れたように突っ込みを入れるが、これが私の日常だった。
そして現在――。
「この薄汚い田舎令嬢が!貴様との婚約は破棄する!」
「はぁ…」
「そもそもお情けで貴様と婚約してやったんだ!その慰謝料を支払え!」
「お可哀想なギョーム」
公の場で芝居のかかったような捨てセリフ。
隣には侍るように抱き着く女性。
一応彼は私の婚約者(仮)ということになっている。
何故なら、婚約話があったが正式なものではない。
正式な婚約を結ぶ前にパパが不慮の事故で無くなってしまったのだ。
理由は幻のマグロを釣ろうとしたが逆に引きずられたのだ。
跡継ぎである私はまだ社交界デビューを果たしていなかったので婚約者の両親が管理をするということで片付いたのだが、それがまた厄介だった。
通常、アレンドール王国は女性でも爵位を継承できるが結婚と同時に爵位を返上という価値になるのだが。
私が引き継ぐ土地は婚約者であるギョーム・パンデミックが継承する方に持っていかれた。
正式な遺言がない状態では無理だし、そもそも男尊女卑が当たり前のこの国では国王も女性は跡継ぎになるのは悪だと豪語している。
時代錯誤だと思ったが抗うすべもなかった。
それ以降は私の立場は決していいとは思えず、パンデミック家の管理の元農業を行い。
出荷した作物はすべてパンデミック家に奪われ、私は婚約者というよりも使用人以下の扱いを受けていた。
社交界デビューもさせてもらえず、学園に通うことも許されなかった。
私はパンデミック家からすればお荷物。
その理由は加護を持たないからだ。
この世界では数多の女神が存在し、女神の加護を受けることがステータスだ。
魔法も存在し、より強い女神から祝福を受けていれば国は長らく反映するのだけど、私は加護がほとんどない。
あると言えば豊穣の女神さまの加護で、使役できるのはゴーレムだけだ。
戦闘にも使えない。
役立たずの魔物を使役するだけと言われていたのだ。
貴族令嬢として美しい容姿も気品もない教養もない故に、周りの目は冷たかった。
挙句の果てに女神から賜る聖剣や魔法の杖はなく。あるのは鍬のみだ。
スキルは農業や生産スキルのみだったので、さらに婚約者とその家族をイラつかせてしまったというわけだ。
589
お気に入りに追加
2,226
あなたにおすすめの小説
愛されなければお飾りなの?
まるまる⭐️
恋愛
リベリアはお飾り王太子妃だ。
夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。
そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。
ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?
今のところは…だけどね。
結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。
【完結】無能に何か用ですか?
凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」
とある日のパーティーにて……
セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。
隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。
だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。
ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ……
主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
妹がいるからお前は用済みだ、と婚約破棄されたので、婚約の見直しをさせていただきます。
あお
恋愛
「やっと来たか、リリア。お前との婚約は破棄する。エリーゼがいれば、お前などいらない」
セシル・ベイリー侯爵令息は、リリアの家に居候しているエリーゼを片手に抱きながらそう告げた。
え? その子、うちの子じゃないけど大丈夫?
いや。私が心配する事じゃないけど。
多分、ご愁傷様なことになるけど、頑張ってね。
伯爵令嬢のリリアはそんな風には思わなかったが、オーガス家に利はないとして婚約を破棄する事にした。
リリアに新しい恋は訪れるのか?!
※内容とテイストが違います
嘘を囁いた唇にキスをした。それが最後の会話だった。
わたあめ
恋愛
ジェレマイア公爵家のヒルトンとアールマイト伯爵家のキャメルはお互い17の頃に婚約を誓た。しかし、それは3年後にヒルトンの威勢の良い声と共に破棄されることとなる。
「お前が私のお父様を殺したんだろう!」
身に覚えがない罪に問われ、キャメルは何が何だか分からぬまま、隣国のエセルター領へと亡命することとなった。しかし、そこは異様な国で...?
※拙文です。ご容赦ください。
※この物語はフィクションです。
※作者のご都合主義アリ
※三章からは恋愛色強めで書いていきます。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる