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しおりを挟む医務室にてシロカの手当てを終えた後の空気は悪かった。
「シロカ、痛むはどうかしら」
「申し訳ありません」
シェリラが傍で傷の手当をしながら、心配そうに見つめる。
「ごめんなさい」
「シェリラ様、誰の所為でもありませんわ」
手当てをしながらシェリラはずっと自分を責めていた。
シロカは優秀な侍女だった。
嫌味を言われても上手く交わす事など動作もないはずなのに、こんな事になった原因は大体察している。
(きっと、私を庇った所為だわ)
これまでミレアルに理不尽な責められ方をした時は常に庇ってくれた。
その所為で咎められたりミレーヌの機嫌を損ねて立場が悪くなったこともあったのだ。
(前世で私が悪く言われた時も…)
容疑をかけられ、悪女に仕立て上げられた時も最後まで庇ってくれた。
ラインハルト以上に、傍で支え守ってくれたのはシロカだったからこそ修道院に行くことが決まった時も侍女を辞めてついて行くことを決めていた。
勿論ミレアルは許さなかったがシロカは聞かなかった。
シロカの雇い主はオズワルドであってミレアルではないし、侯爵家の当主であるライオネルが許してしまえばミレアルが何を言っても無駄だった。
代わりに嫌がらせをされていた事をシェリラは知っていた。
没落した家を建て直そうとするシロカの妨害をして脅しをかけたりもしたが、シロカは揺らぐことはなかった。
(全部私の所為じゃない!)
顔を俯かせ唇を噛みしめ過去を悔やみ、そして今も変わらないことを悔やんだ。
「こんな…顔に傷を作って」
「お嬢様、私は侍女として果たすべきことをしたのです」
「え?」
個人的感情はどうであれ、今回の怪我は侍女としての判断だったというシロカの言葉が解らなかった。
「私は主の名誉を傷つけられる事は許せませんでした。侍女とは主の懐刀です。その役目を全うした結果がこれです。私が未熟故にこんな事になりましたが」
「でも!」
「お姉様、シロカは当然の事をしただけですわよ」
納得できないシェリラを咎めるようにヴィオレットが告げた。
「今回の出来事はティナもいました。あそこでシロカが動かなければティナが怪我をしていた可能性もありますし、貴女の尊厳を汚されて、黙っている侍女など我が公爵家には必要ありませんわ」
「でも!」
「確かに己の身を守るのは必要。ですがそれ以上にシロカは主を守り、ティナをも守った事は賛美に値するでしょう。明日にでも王宮で噂が流れるでしょう」
シロカが守ったのシェリラだけでなく公爵家の権威をも守った事になる。
噂が広まれば広まる程シロカは評価される。
「顔の傷は幸いにも残りませんわ。宮廷医師を派遣させます」
「ヴィオレット様!」
宮廷医師の医療を受けられるのは貴族でも限られているので断るも当然だったがヴィオレットは聞く耳を持たなかった。
「それに代金はノースライナ―侯爵家に請求しますから」
ヴィオレットが向けた先は扉で、足音が近づいていた。
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