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しおりを挟む振り上げた手がラインハルトを傷つけることはなかった。
「何をしているんだ!」
「貴方!」
殴られる寸前に邸に入って来たのはライオネルだった。
「邸に戻って来てみれば、様子がおかしかったが…ラインハルトを殴ろうとしたのか」
「これは…違うんです!」
「何が違うんだ、扇を持ったまま、それでラインハルトを殴ろうとしたのか?なんて事を」
普段の優しい表情から一変し、ミレアルは冷や汗を流した。
「侯爵閣下、ご夫人は情緒不安定ですのよ」
「公女様、お見苦しい所を」
「私は気にしませんわ。身内になるのですからそのような気遣いは結構」
「そう言ってくださると助かります。この度はご尽力くださり誠にありがとうございます。今後とも娘の事をよろしくお願い申し上げます」
「貴方…何を」
ライオネル言葉にミレアルは意味が解らなかった。
「未来の義従妹ですもの。問題ありませんわ。侯爵閣下も話は円満に解決なさったのですね」
「はい、王妃陛下の配慮で滞りなく。娘はクランベル公爵家の養女に出した後に王家に嫁ぐこととなります」
「えっ…お父様?」
シェリラも困惑気味だった。
何故クランベル公爵家が関わって来るのかと。
「王妃陛下は君を是非王家に嫁いで欲しいと言っている。しかし王家に養女に出すのは難しい。故に実家のクランベル家に一度養子縁組をした後にフィディオ殿下に嫁いで欲しいとのことだ」
「そんな…何を言ってますの!」
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「ライオネル…」
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夫としても父親としても失格だった事を悔やんでも悔やみきれないが、逃げる事はしない。
「シェリラ、私は長らく見ようとしていなかった。ラインハルトの言葉は最もだ」
「お父様…」
「許してくれとは言わない。だが言わせてほしい」
父と呼ばれる資格はないが、せめて言わせてほしい言葉がある。
「どうか幸せに」
嘘偽りのない父としての思いだった。
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