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しおりを挟む月虹宮にて、悩まし気な表情をする若き教皇は花を見てはため息をついていた。
「猊下、またため息ですか」
「やぁ、ヴィオレット嬢」
「他のご令嬢が見たら失神しますわ。国一番の美しい容姿をお持ちだというのに」
軽口を叩く大人びた幼き令嬢こと、ヴィオレット・クランベルは呆れていた。
「相変わらず手厳しいですね」
「白い百合など送られるとは…彼女は王太子妃候補ですのよ」
「そうですね。許されない…」
「白百合なんて渡さず、求婚の薔薇をお送りされればよろしいのに」
「ヴィオレット嬢」
咎めるどころか、奪ってしまえと言われ困り果てる。
「この世は食うか食われるかですわ…待っていても幸せになれませんわ」
「私は聖職者です」
「ですが、過去に結婚した教皇様もいらったしゃいます。花の鎖を使えば可能ですわ」
社交界では深窓の令嬢とまで評価されるが実際はかなりの気の強い令嬢だった。
優秀で天才肌であるが、控えめとは言い難かった。
「花の鎖はリスクが大きいのですよ」
「ですが、潔癖症の猊下ならば問題ありませんわ」
「私は一応王族なんですけどね…」
普通なら不敬罪となるのだが、気心知れた仲でもあるので月虹宮内では許されていた。
「猊下、貴方は何時も御自分の事は後回しでした」
「それが私の役目です」
「兄君に遠慮して王位を譲り、日陰で生きる道を選び、兄君の尻拭いをさせられているのに…いつまで甘んじるのです」
「不敬ですよ」
誰かに聞かれていたらどうなるか。
不敬罪として罰されるのに、ヴィオレットは構わず続ける。
「太陽は月がいなくては輝けない。月の存在の大きさを知らないから」
「それ以上は行けませんよ」
「愛する人まで奪われるのですか」
ヴィオレットの訴えが痛かった。
一部では何もかも兄に奪われ、教皇としてすべてを捧げさせられているとも心無い事を言われていた。
「大切な花を奪われるのですか」
「それは…」
「男女の機微に疎い猊下にお持ちしましたの。これで勉強してくださいませ」
「え?」
パチンと指を鳴らすと侍女が運んだのは。
「何故恋愛小説に…略奪愛のジャンルを」
「これで勉強してくださいませ。そして花を手折ってくださいませ」
「私は聖職者なのですがね」
「ですが人間ですわ。この世に欲望のない生き物は存在しませんわ」
言っている事は正論であるがもう少し遠慮をしてもらいと思う反面、社交界では本音と建て前を使い分け他人を陥れる為に優しい振りをする人間が多いのである意味では救いだった。
「お嬢様、そろそろ」
「ええ、では失礼します」
優雅な所作で退出し、深層の令嬢に戻るヴィオレットだった。
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