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15.
しおりを挟む結局私は邸に帰ることにした。
辛い事から逃げていても仕方ない。
嫌だから楽な方に逃げても何の解決にもならないことを知っていた。
「お兄様、ごめんなさい。我儘ばかり言って」
「お前のは我儘に入らないさ」
「お兄様、大好き」
腕にしがみ付きながら甘える妹に嬉しくなる一方で甘える事すら許されなかった環境を憎らしく思った。
「シェリラ!」
「母上…」
「やっと帰って来たのね。まったく…」
帰って来て娘を抱きしめる事もせずに、帰って来ないことを責める。
「母上…」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。不肖の娘でお母様に恥をかかせたことを深く反省しております」
「えっ…シェリラ」
「遅れた分は取り返します。すぐに勉強に戻ります」
ミレアルは戸惑うも視線を合わせることなく言い放つ。
「お母様に恥をかかせる事無く勤め上げますのでどうかご安心を」
「シェリラ…」
「それは失礼いたします」
淑女らしく礼を尽くし、完璧な所作に息を飲む。
完璧すぎて違和感を抱く程に。
「待ちなさい」
「遅れた分を取り返しますので」
そのまま部屋に戻るシェリラには表情がなかった。
「ラインハルト」
「僕も勉強がありますので失礼します」
助けを求めるような表情をするも、それとなく理由をつけて部屋にこもり、シロカも仕事に戻る。
その間シェリラは部屋に閉じこもって勉強をしていた。
「シェリラ、入るわよ」
「はい…」
「少し休んでは」
「遅れを寄り戻さなくてはなりません」
手を休めることなく勉強を続け。
「シェリラ、帰っていたんだね」
「はい、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。今後はこのような我儘はいたしません。どうかお許しくださいませ」
「シェリラ?」
まるで使用人が雇い主にするか如くお辞儀だった。
「私は別に咎める事は…」
「今後お父様とお母様の恥になる行いは致しません。侯爵令嬢として恥ずべき行動、言動はいたしません」
事務的な言葉。
表情が変わらない娘にライオネルは真っ青になる。
模範的ではあるが、娘が父親に向けるにはあまりにも感情がなかった。
「そろそろ勉強に戻りますので」
「そんな、病み上がりで」
「問題ありません」
前世では熱が出ても淑女教育を休ませてはもらえなかった。
熱が出たのは自己管理を怠った自分の所為だと責められ、ある時は気を引きたいがためだと罵倒を浴びせられたのだ。
「体調管理もできなかった私が悪いのです。どうかお気になさらず」
「しかし…」
シェリラはもう期待を辞めた。
そして割り切る事を選び仮面をつけることにしたのだが、ライオネルはこのままではダメだと思ったが。
「お姉様帰って来たの?」
ノックも無しに勝手に部屋に入って来たミレーヌによって会話は遮られてしまった。
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