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13.
しおりを挟むウィスタリア王国の王太子殿下、リシャール・ウィスタリア。
シェリラの婚約者でもあった。
「殿下、お戻りを」
「何故だ。どうして…」
「お下がりなさい」
席を立つフィディオが告げる。
「すぐに教育係を呼びなさい。どんな身分であろうともここは神聖なる神が眠る神殿でもあり、許可が無ければ入る事は許されません」
「ですが僕は王太子で…」
「国王陛下でも許されません」
「そんな…ですが、彼女は」
リシャールは納得できないでいたが、子供の我儘にしか聞こえなかった。
「彼女の後見人である私が彼女を教え導く役目を陛下から直々に賜っております。彼女は政治や淑女教育以外にも学ばなければなりません…ですが、体調を崩しているので現在はここで療養をしているのです」
「体調を…」
「病人の前で声を荒げるとは感心しませんよ」
「…申し訳ありません」
厳しく言い聞かすだけではなく理由をちゃんと話したので納得はしたようだが、この場を離れようとしないリシャール。
「さぁ、お帰りなさい」
「私もこの場に…」
「今日は乗馬の特訓があるはずです。いけません」
「では、彼女を王宮に…」
一同は内心で思った。
全く理解していないだろうと。
折角優しく説き伏せたのに理解していないのではないか。
「申し訳ありません殿下…まだ体調が」
「だったら僕の」
前に一歩踏み出そうとするもシロカが前に出る。
「何のつもりだ」
「申し訳ありません。お嬢様は歩くのも難しいのです」
「そんなに体調が悪いのか?君は丈夫で妹よりもずっと健康だと聞いていたのに」
この言葉で空気が凍り付いた。
「先ほど侯爵家に会いに行ったが、本ばかり読んで閉じこもっているからじゃないか」
――この男は何を言っているのだろうか。
この場にいる全員が思った。
「舞踏会もあまり顔を出さないから」
出たくても出られないし。
そんな余裕がないのに責める様な事を言うリシャールに傷つくよりも呆れて何も言えなかった。
「妹は淑女教育が忙しく」
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「殿下、私の考えと殿下の考えは違います。殿下と違う考えを持つ私はいけませんか」
「え…」
ずっと言えなかった言葉を告げた。
相手と違う思いを持っていれば悪だと判断され、排除されるならば。
もうそれでいいと諦めに近しい考えを持っていた。
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