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しおりを挟む本来なら無礼だが、覚悟の上だった。
「お優しい兄君、私は貴方の大切な妹君を傷つける真似はしませんよ」
「猊下」
「言わなければ解りませんか」
胸に手を当て、誓いを立てるかのようだった。
「言葉に出すことは許されないのです。私は聖職者を導き天の声を陛下に伝える立場です」
「猊下…」
「愛しております。私の愛しいカナリア」
罪を懺悔するかのように告白するフィディオの気持ちに嘘偽りはなかった。
「申し訳ありません。なんと無礼を」
「いいのですよ。私も誰かに聞いて欲しかったのです。それに甥を愛している彼女にこの思いは許されないのです。私は後見人として彼女を…」
「妹は殿下を好いていません」
「は?」
本人がいない場で言うのは躊躇したが、言うべきだと思った。
「リシャール殿下と顔合わせがあった日、妹は高熱を出したのです」
「それは緊張して…」
「その間名前を呼んでました。私と侍女と…そして猊下を。夢の中で何度も謝り続けていたのです」
その言葉を聞いてフィディオは傷ついた表情をした。
「王太子妃になるのはそこまで負担だったのですか…彼女は期待を背負い過ぎていたのですね」
「本当は王太子妃にはなりたくなかったのかもしれません。このような事を申し上げるのは無礼ですが」
「いいえ、教えてくださりありがとうございます」
貴族同士の婚姻は政略結婚が多い。
だが、政略結婚の中でも愛情を育む者もいれば稀に恋愛結婚をする者も多いのだ。
実際ノースライナ侯爵家は恋愛結婚をして社交界では理想的な夫婦だと言われている。
子宝にも恵まれ、誰もが羨む程に。
だが蓋を開ければどうだろうか。
円満な夫婦関係は否定しないが、その犠牲になっているのがシェリラだった。
「猊下、シェリラは頑張り過ぎる程頑張って参りました」
「ええ、彼女は向学心旺盛で信仰心が強く」
貴族令嬢にとって身分の高い家に嫁ぐのは誉だが、既に侯爵という立場上無理に王族に嫁ぐ必要はない。
むしろ侯爵という高位貴族の令嬢が嫁げば周りからの反感が高まるのではないか。
ならば家臣のままでいた方が安全だとも思っている。
「派閥のバランスも考えれば、ヴィオレット嬢の方が安全かと」
「クランベル公爵令嬢のヴィオレット様ですか」
ノースライナ侯爵家とクランベル公爵家は決して仲が良いと言うわけではない。
だが、必要とあればクランベル公爵家は協力する柔軟性を見せているのだが、あくまで国の為でしかない。
「彼はいい意味でも悪い意味でも領主の鑑ですからね」
「ですが、政治とは国…民の為にある物だと訴えていおられのは間違いありません」
「現段階ではまだはっきりとは…」
政治に口出せるが、聖職者があまり口出し過ぎると後から問題が生じるので強くは言えないのだが、事情が変わった今動くべきかと考え込むフィディオだった。
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