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第一章
10仮初の婚約者
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すこしばかりこじんまりとした一室にて。
後は若い者同士でとお決まりの台詞を言われて二人気にされる。
正直何を話していいか解らない。
だって今まで男性とお茶会をした事なんてほとんどなかったし、聞き手に回る事がすごく多くて。
自分から会話をふるにしても何を言えば良い?
不躾な事を聞いてしまってはダメだと思いながらお茶菓子に手を伸ばす。
「あ、美味しい」
普段口にしている焼き菓子とはまるで違う。
「そうか。俺が作ったんだが」
「え…」
私が食べているクッキーは殿下が作られた?
「お茶も俺が淹れたんだ」
「正直、殿下の女子力は高すぎる気が」
私はこんなに美味しいお茶を淹れる自信がない。
焼き菓子だって上手に焼ける自信はない。
「こんなに美味しいお菓子は初めてです」
「君の領地はビスケットやパンかパイらしいな」
「はい、砂糖は貴重で…」
甘味料が不足しているので砂糖の代わりにジャムや蜂蜜を使っている。
クライア家は食べて幾分には困っていないが裕福とは言い難く質素な暮らしをして、狩りをして食料を調達している。
「そうか、君達辺境地にも苦労をかけている」
「違います。十分な支援金はいただいております。過度な援助は不正に使われます。税金は国民の労働なのですから」
国民が納めた税金を横流しする者もいる。
援助したお金が必要な人に支給される事はない。
本当に必要な援助は金ではないのかもしれない。
「君はすごいな」
「はい?」
「いや、折角のお茶の場ですまない」
私はもっと聞きたい。
殿下が何を思っているのか、この国の事を本気で考えておられるなら。
「もっとお聞かせください」
「え?」
「私は仮初でも殿下の婚約者としての役目を全うする覚悟です。ですから知りたいのです」
雲の上の存在の王太子殿下が何を考えているかなんて私が知りたいなんて無礼かもしれない。
でも…
私はこの方の考えている事を知りたい。
強く思った。
手テネオスに対して感じることが無かったこの感情を私は知らなかった。
「知りたいんです」
「フッ…そうか」
困ったようにくしゃりと笑う笑顔。
この時私は初めて殿下の心からの笑顔を見た気がした。
社交辞令ではなく心からの笑顔だった気がした。
「次は君の番だ」
「え?」
「俺の事ばかり聞いてフェアじゃないだろ?俺も君のことが知りたい」
そしてもう一つ。
この人は天然誑しだと思った。
レオナルド様もしかり、殿下もだけど。
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