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第一章
33思い出の味~アゼリアside
しおりを挟む形が崩れてぐちゃぐちゃ。
料理なんてした事もない叔父様は慣れないことをして。
でも…
「美味しい。あの時の味だわ」
「アゼリア」
「私が食べたかったクレーム・キャラメル」
カボチャの味がして。
優しい味が幸せだった思い出が蘇る。
「本当は…寂しかった」
「アゼリア」
「一人で食べる食事が…一人で食べても味がしなくて」
私はずっと寂しかった。
二人が亡くなって、この伯爵家に来て寂しかった。
広すぎる部屋に、ダイイングも距離があって。
食事は冷たく冷めていて。
「冷たい食事が美味しくなかった」
「すまなかったアゼリア。私は君が何を欲しているか解らないんだ。君に幸せになって欲しい。だから我儘も聞いて来た…だが、大事な事を忘れていた」
違うわ。
違うのよ叔父様。
私は――。
「君は私の大事な宝物だ。姉さんが私に残してくれた宝だ。誰がなんと言っても君は私の娘だ。これからは君とできる限り食事を一緒にしよう」
「叔父様」
「一年後君は嫁ぐ。だがそれまでの時間を大事にしたい。お嫁に行ってもたまには帰って来て欲しい。本当は寂しいんだ…いや結婚なんてして欲しくない!」
「おい、ヨーゼフ!」
「王家にもあげたくない!アゼリアを奪う男は憎いに決まっているだろ!」
私は邪魔じゃなかった?
結婚していない叔父様のお荷物だと思っていた。
でも違った。
「叔父様!」
「アゼリア!」
周りの雑音に耳を貸さないで叔父様の事をもっと信じれば良かった。
「えぐっ…えぐっ…なんていい話なの」
「泣くなグレーテル。とりあえず鼻水を…ズビッ!」
傍で鼻水と涙を流す淑女としてあるまじき行動をするグレーテルに私の涙は引っ込んだ。
「なんてみっともない姿なの!」
「へ?」
「淑女たるものなんて無様な!今すぐ着替えてレッスンよ。叩きなおしてあげるわ」
「えええ!私もクレーム・キャラメルを」
「貴女に必要なのは教育よ!」
私は涙を拭いて泣いてしまった事を隠すようにしてグレーテルを𠮟りつけた。
本当に変な人。
お節介で、向こう見ず。
自分の事はダメダメな癖に。
だけどそのお節介に救われた。
叔父様の思いを知る事が出来た。
私はちゃんと叔父様に愛されていた。
このクレーム・キャラメルが証明してくれた。
でも作ったのはほとんどグレーテルだわ。
特別な料理法と火加減が命なのだから叔父様にできるはずがない。
グレーテルが私と叔父様を結び合わせてくれた。
私を素直にする魔法を使って。
この日を私は絶対に忘れないわ。
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