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第一章
27片手だけ繋いで
しおりを挟むスコーンを半分にして食べながらお嬢様は寂しそうに言う。
「人間って寂しいわね」
「え?」
子供らしかぬ大人びた表情だった。
「他人を踏みつけてのし上がっても籠の鳥の中で威張っているだけ」
「籠の鳥?」
「そうよ、貴族の奥様なんて狭い鳥籠にいるようなもの。私も鳥籠に入るの」
遅かれ早かれ貴族令嬢は社交界デビューをした後に結婚するのが普通だ。
私の年齢ならば結婚していてもおかしくない。
でもお嬢様は早すぎる。
「来年、私は王室に嫁ぐの。顔も見た事がない人に」
「お嬢様」
「でも仕方ない事よ。だけど…」
我儘を言って気丈に振舞っていても怖いのは当たり前だ。
「お嬢様立派です」
「何よ、いきなり」
「逃げ出したい。結婚したくないなんて言われないのですから」
「馬鹿じゃないの!そんなことを許されるはず…」
もしかしたら我儘を言って周りを困らせていたのは。
抵抗できないとわかっていながらサインを出していたのかもしれない。
「怖くて当然じゃないですか?貴族の常識は私にはありません。ずっとそいう環境にいました。でもお嬢様は私よりもずっと物わかりの良い方で」
「違う…私は」
「とっても良い子です」
「私はそんなんじゃない!でも…」
歯を食いしばるお嬢様を見て私は少しだけお所様の心の中を見た。
「私は尊敬しますよ。必死で背筋を伸ばしているお嬢様を」
「馬鹿じゃないの貴女」
「はい、私は頭が悪いです。そして社交界には友達も一人もいません。ですから私とお友達になってください」
「社交界は騙し合いと踏みつけあいよ!」
きっとお嬢様はこれまで傷ついて来たのかもしれない。
貴族社会の厳しさを私は知らなかった。
それはママンにダリア様やルシウス様達が知らない場所で守ってくれていたから。
貴族の生活はとても窮屈で息ができない程辛いのかもしれない。
でも、一人じゃなければ耐えられる気がする。
「お嬢様、私に教えてください。貴族社会の事を。私はまだ何も知らないのです」
「貴女なんて社交界に出たら餌食にされるわ。まぁいいわ…教えてあげてもあげるわ」
「お願いします」
私はこの日、初めてお友達ができた。
気が強くて優しくて、本当は素直な素敵なお嬢様。
だけど、お嬢様の婚約者って誰なのかしら?
きっと高位な方なのだろうとしか思えっていなかった。
後のその方に合う日が来るなんてその時は思いもよらなかったのだ。
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