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第一章
5ドナドナ
しおりを挟む普通に考えても無理がある。
だけど、そんな言葉を誰も聞くはずもなかった。
この家に私の味方はない。
ハワードまでも私を毛嫌いしてたなんて気づかなかった。
馬車の中でユラユラ揺られながら。
「ドナドナされるのかな」
まるで私はこれからドナドナされる子牛の気分だった。
お姉様を望んで決まった縁談話に私が行ったら追い返されるんじゃないか。
しかも持参金はない。
服装だってこれじゃあ追い返される。
「とりあえず不敬罪で殺されないようにしよう」
シャノトワール伯爵様の母君は女性でありながら爵位を持つ方。
若かりし頃は王宮で女官をしていたと言っていた。
気位が高く礼儀に煩く、お姉様ですら厳しい態度を崩さない。
だったら私はどうなるだろう。
「この際身一つで生きて行こうか」
東北地方は海岸沿いで海があれば魚も捕れるし、貝も豊作だって聞いたし。
「そうだわ。お姉様の言い方では厳しい方だって聞いていたけどちゃんと話そう」
話してダメだったらその時考えればいいわ。
これまで私は切り替えをして乗り切って来た。
そう、お腹が満たされて、夜に寝ればなんとかってきたんだもの。
「そう大丈夫よ」
一人で言い聞かせていると。
ドォン!
「おいうるせぇぞ!」
「はい!ごめんなさい!」
御者の人に怒鳴り散らされる。
格安で雇った御者なのでガラが悪いけど大丈夫だろうか?
「ったく、姉の方なら手が出せたのに。萎えるぜ」
この男最低だな。
客に手を出していたのか。
まぁ両親に溺愛されているお姉様ならこんな馬車で行かないだろう。
「あっ、海が見える」
潮風がすごく気持ちよく素敵な景色が見える。
ずっと本の中で憧れていたコバルトブルーの海に、船だった。
「わぁー綺麗」
「おい!いい加減にしろクソ女!」
壁をドンドンと叩かれるも私はワクワクが止まらなかったが。
「いい加減しやがれ!」
「痛い!」
御者が苛立ちながら手が伸びる。
「やめっ…」
「俺をこれ以上苛立たせるんじゃねぇ!てめぇなんか…」
前髪を鷲掴みをされ殴られそうになると思った。
「その手を放しなさい」
「あ?何だこのクソ婆ぁ…ぎゃああ!」
「今すぐその口を閉じなさい。そうでなければ二度と起き上がれない体にして差し上げますわよ?」
私を助けてくださったご夫人は美しい金髪に翡翠の瞳を持った方だった。
「この私を誰と知っての所業か!無礼者!無断で我が領地に土足で入るとは」
「止めろ!俺はオクレール家の娘を運んできてやったんだ!」
「は?」
ご夫人は御者を押さえつけながら私を見た。
「まさか、貴女がグレーテルさんかしら?」
「はっ…はい、申し訳ありません」
まずい。
このタイミングでは私も同じような目に合ったりするのかしら?
「貴女が…そう」
「はい、姉は病故に嫁ぐことが叶わなくなりまして。シャトワール家の皆様にはご無礼を」
お姉様を心から望んでいらしたのだから、せめて誠意を持たなくては。
「こんな馬車で夜道を走って来たなんて。それにしてはお元気そうね」
「はっ…はい、私は体だけは頑丈です。三日間徹夜しても風邪を引いたことはございません」
今まで病気になった事は一度もない。
それだ健康で、体力にも自信があるのだから。
「そういう事ではありません。そこの御者。お前の雇い主を言いなさい。即刻解雇にするように伝えます」
「は?」
「お客様に、しかも貴族の令嬢に暴行を働くような者は御者に向いていません。即刻この領地から立ち去りなさい」
「待ってくれ俺は…」
「嫌ならば暴行未遂、並びに侮辱罪で逮捕してあ下げても良いわ?臭い飯を食べて拷問が趣味なら」
「解ったよ!チッ…」
舌打ちをしてそのまま御者はその場を去って行った。
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