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第一章
3婚約者
しおりを挟む私は邸に留守番となり一日中掃除をしていると。
「グレーテル」
「ハワード?」
家族が留守の間に尋ねて来るなんて珍しい。
しかも一人で尋ねて来るなんてどうしたのだろうか?
「今日は君一人か?アルミナ嬢やご両親は?」
花束を持っているのを見るとお姉様のお見舞いか。
本当に律儀な人だ。
「今日は大事な見合いの日だから」
バサッ!
手に持っている花束が地面に落ちる。
「折角の花束が…」
「何所の誰だ!」
「きゃあ!」
肩を掴まれ爪が食い込んでいく。
「痛い…ハワード!」
「君は何でそう平然としているんだ!君は実の姉の体を知っているのか」
「え?何で…おめでたい話なのよ?」
ハワードの瞳が赤く染まっているようだった。
お姉様の事をずっと心配していたから解るけど、シャトワール家はしっかりした家だ。
「お姉様が何不自由なく過ごせるのよ」
「本気で行っているのか。家から出て、遠い地に嫁げば滅多に会えないんだ。君はそんな酷い人だったのか」
「どの家に嫁いでも同じなら、できるだけ手厚く迎えてくれる方がいいのに。どうして?」
「やっぱり君は何も解ってない。だからダメなんだ…もういい!」
「うっ!」
ハワードに突き飛ばされその場で膝をつく。
折角のお花は台無しになってしまった。
「折角持ってきてくれたのに」
花弁が散ってしまったけど、飾れるから飾って置こう。
「でも、どうしてあんなに怒ったのかしら」
お姉様は確かに体が弱い。
でも重病という程でもはない。
幼少期とは異なり、食欲だってある。
最近は三食以外にお菓子も食べているから足りない栄養は補えている。
時々体調を崩すけど、食欲旺盛ならば問題ないと市場のおばさんが言っていたわ。
「きっと嫁ぎ先でも大事にされるだろうし、良いお医者さんを紹介して貰えば大丈夫よ」
シャトワール領地は温かい場所で、海も近く食べ物もおいしいのだろな。
「どんな食べ物があるのかしら」
昼過ぎになった頃、邸内の窓を拭いている馬車の音が聞こえる。
騒々しい足音を立てながらお姉様が玄関に入って来ると。
「邪魔よ!」
「わぁ!」
バケツを蹴り飛ばし私を見る。
「ちょっと床が濡れちゃったじゃない!最低」
「でも…」
「こんな所に置くんじゃないわよ!」
「うっ!」
転がったバケツを蹴られ腹部に当たる。
「アルミナ!」
「お母様!グレーテルがバケツをひっくり返して私の靴が…」
「まぁなんて事!掃除も満足にできないの!」
「この出来損ないが!役に立たないお前は一層のこと死んでしまえばいい」
杖を振り合上げられ殴られる。
「っ!」
痛いけど声を上げたら怒られる。
泣いてはダメだと言い聞かせながら痛みに耐える。
「この…この屑が!」
どうしてこんなに苛立っているんだろうか。
邸を出るまではあんなにも上機嫌だったのに、何があったの?
「お父様、私…あんな家嫌よ!結婚したくないわ」
「アルミナ」
「そう言うんじゃない。小姑は不愉快だが、少しの辛抱だ。数年後には財産はお前の物になるだろ」
「そうよ。少しの辛抱で大金が手に入るのよ」
見合い相手のシャトワール家と何かあったのかな?
数時間前は乗り気だったのに。
「あんな嫌味な女が二人もいるのよ。無理よ…耐えられない」
「まだ会ったばかりじゃないか」
「だって!」
殴られた私は頭がくらくらしながらその場で意識を手放した。
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