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76.私の家族~アイリスside
しおりを挟むもう過去の私はいない。
今の私は背筋を伸ばして生きていくだけ。
過去は振り返らない。
「私の過去は消えないでしょう。ですが、過去に縛られる事はありません。既に勘当をされた身ですわ」
「アイリス…何を」
「私はステンシル侯爵家の汚点。確かにそうかもしれません。血だけ繋がっていましたが私を養育してくださったのは婚約者の母君ですもの」
「なっ!」
10歳の頃から私を大切に慈しみ愛してくださったビアンカ様。
「今日は何の日かご存じですか?」
「は?何を…」
「この日に私は貴女達にすべてを奪われた日ですのよ」
そう、丁度一年前。
私かから婚約者を奪い、そしてユーリ様を無理矢理婚約者にして事を起こそうとした日。
「何を言っているの!」
「忘れているようなら私が差し上げましょうか」
「ウィンディア辺境伯爵夫人!」
そこに現れたのはビアンカ様だった。
「一年に我が息子を卑怯な罠で偽りの婚約をでっち上げられ王都に噂を流した後に、婚約を無理強いした日ですわ?あろうことにも、その日はアイリスの誕生日。娘の誕生日すら覚えていなかったのね」
「は?」
「誕生日だと?いや…アイリスの誕生日は冬ではなかったのか?」
お父様は私の事に関心がないのは知っていた。
我儘を言わない聞き分けのいい娘程度にしか思っていなかったし、何も言わないのを好都合に思っていたのね。
「私の誕生日は春です。その時期は春のお茶会に出て私は置き去りでしたから」
「それはお前が言わなかったからだろう!私は何も…」
言わなかったんじゃない。
私に何一つ言わせてくれなかったんでしょう?
「あらおかしいですわね?毎年冬になると私は手紙を送ってましたわ。アイリスの誕生日の祝いの品を早めに送ったりもしましたけど…」
「それは!」
「私は一度だって家族に誕生日所かお祝いの言葉すら頂いたことはありませんわ。言わなかったのは言っても無駄ですし、無意味だと思いましたの…無駄な事に時間を使うなと教えられましたので」
そう、この言葉は幼少期に言われた事だ。
私はお出かけの時は留守番でパーティーに行くにもドレスもなかった。
それで一度だけお父様におねだりをしようとしたが、言われたの。
『無駄な時間につき合わせるな。私は忙しい』
その言葉にどれだけ傷ついたか。
「我儘も言わないいい子ではなく期待をしなくなったのです」
私が何か言えば否定され、素直に従う操り人形になっていた。
我儘を言ってもいいのだ。
そう言ってくれたのは――。
「私の母はビアンカ・ウィンディア様です。今の私を育ててくださったのはこの方なのですから」
お姑様だった。
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