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54.真夜中の客人
しおりを挟む真夜中、誰もが寝静まった時間。
物音がして、俺とアイリスは急いで近づく。
実はこの離宮はいたる所に仕掛けがされており、出入り口は一つだが、壁を動かせるようになっている。
「ジャック」
「外は問題ございません」
騎士団の服装をしたジャックはランタンを片手に後ろにいる人物に声をかける。
「さぁ、お二人共」
「お待ちしておりましたわ。ルゴニス殿下、ローゼ様」
今夜、二人をこの離宮に招く事になっていた。
公に王宮に招くのは危険だからだ。
その為、ジャックを迎えに寄こさせ、王宮の外をロビンが巡回して隠し通路を使って来たのだ。
「もう殿下ではありませんよ、アイリス様」
「そうでしたわね」
まだ一年しか過ぎていないのに、以前よりも立派に見える。
「ルゴニス様…」
「ユーリ殿下」
「どうか、ここでは昔のように」
面影は残っているが、以前のルゴニス様とは違う。
悪い意味ではなくいい意味だ。
どこか吹っ切れた表情をしていて、辺境地での生活は決して悪い者ではないのかもしれない。
「ユーリ、本当になんと感謝して良いか」
「私達は罪人ですのに、此度の宴に私達を招いてくださり誠にありがとうございます」
「本来ならば迎えの馬車を向かわせたかったのですが…難しく」
未だにルゴニス様を良く思わない者も多い。
真実を知らない者、貴族派の者は道を踏み外し何もかも失った愚か者と嘲笑う者が多い。
それだけならまだしも命を狙う輩もいる。
「安全を考えての事なのだろう。招かざる客なのだから」
「ルゴニス様、そのような事は仰せにならないでくださいませ」
痛々しいと感じる。
憐れむわけではないが、ルゴニス様は家族を思い、国を思った末に自己犠牲をしたのだから。
「私は護衛騎士失格でございます。このような事になり…」
「ユーリ、私は犠牲になったわけではない。むしろ今の生活を望んでいたのだ。遅かれ早かれこうなると思っていた。ただ彼女が味方になってくれたおかげで今がある」
ルゴニス様は迷うことなく今の生活に満足していると言われる。
「ローゼには申し訳ないが」
「いいえ、私もルゴニス様をお慕いしておりますわ。下級貴族出身でありますが、国を思う気持ちは同じだと思っております」
「ローゼ様、ありがとうございます」
彼女との面識はほとんどない。
しかし、ある意味ではアイリスやエラノーラ様以上に聡明な女性だ。
例えルゴニス様に恋慕の情を抱いていてもそれだけで動く人じゃない。
理を一番に考える賢い人だから。
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