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38.祖国へ
しおりを挟む俺が皇太子として立太子してすぐの仕事。
それは近いうちに同盟国となる元祖国に行く事だ。
皇帝陛下の代理として向かうのだが、アイリスを同行させなくてはならない。
どうしたものか。
「はぁー…」
「どうしたユーリ、頭を抱えて」
「陛下、ノックも無しに入ってこないでください」
「大丈夫じゃ。隠し扉からじゃからな」
いけしゃあしゃあと言わないでください。
何所にそんな物を作ったのかと尋ねるも満足げに告げられた。
「わたしが皇太子時代は、常に命を狙われていたからな。第一皇妃以外には寝所ででも危険じゃった。故に逃げる道を確保しなくてならなかった…逃げの皇太子とも呼ばれたのじゃぞ」
「自慢しないでください」
戦乱の世では生きた者が勝つ。
お祖父様は帝位を持っていても忘れ等された末っ子皇子だったらしい。
故に逃げる術も生きる術も身につけざるを得なかった。
「此度の視察、どうしても嫌ならば…」
「それはなりません」
「しかしアイリスが可哀想ではないか。自分を捨てた親に会うなど…どうせ嫌味を言ったり金を無心して来たり悪い噂を流されたりしたら…哀れでならぬ」
この顔を公に出せば大臣は泣くな。
信頼できるものは知っているが、お祖父様は身内の縁に恵まれなかった事から家族を大事にしている。
第一皇妃に皇后陛下は早くに亡くなるも良い関係を築いていたのだろう。
「わしは皇帝として、多くの者を奪われ何度も裏切られた。簡単に我が子を捨てるような人間は平気で利用する。そして最後はボロ雑巾のように捨てるのだ」
「暴君と呼ばれた貴方が言う言葉ですか」
「わしとて好きでするわけではない。必要じゃからじゃ。民を、帝国を守るのが勤め。民は子じゃ…子を守れぬ父ほど情けない事はない」
こういう所は本当に母上と同じだ。
姉妹の中で誰よりもこの方の血を受け継いでいるのは母かもしれない。
「アイリスは戦う道を選んでくれました」
「うむ…」
「アイリス自身も過去に決着をつけなくてはなりません」
既にアイリスは彼等を見限っている。
二度と傷つけられることはないだろうし、心配もしていない。
「それに、彼等を徹底的に潰すにはちょうどいいと思いまして」
「潰すと?」
「はい、彼等は国にとっても毒でしかない。既に謀反を起こしているのです」
「何だと?」
俺が隠してある手紙を見せる。
差出人は――。
「白鳥の家紋…もしや」
「元第二王子、ルゴニス様よりの手紙です」
今は廃嫡の身となり辺境地に住まうルゴニス様。
彼から内々に手紙が届いたのだ。
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