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3.騎士の意地

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宮廷貴族からすれば俺の考えは馬鹿だとお思うだろう。
黄金を手放した愚か者だと罵倒するが、俺にとって富も名声もどうでもいい事だ。

「私は王家に忠誠を誓う剣。私から剣を奪うことは何人たりとも許しません」

もし俺から剣を奪える人がいるならば一人だけだった。


「ユーリ」

「王太子殿下」

「そなたが誰よりも正義感が強く、騎士に相応しい事は知っていた」

俺の仕えるべき主。
この国の第一王子、クレイル殿下。


「元をたどれば此度の一件は我が弟がステンシル侯爵令嬢の婚約を破棄した所為だ」

「いいえ、私が未熟故です。貴族同士の婚約は義務。感情が介入してはならぬのです。鎖で感情を抑え込めなかった私が悪いのです…ですが私は!」

「ユーリ様…」


本来ならばどんな理不尽な命令でも王命に逆らうなど許されないのに俺は心を殺せなかった。



「私は出会ってしまったのです」

「そなたは花を見つけたのだな。一輪の花を」

「はい」


俺だけの一輪の花。
どんな時も俺の心を癒し支えてくれる大切な花だ。


「国外追放となってもアイリス以外は要りません」


他の花なんて必要ない。
アイリスがいてくれるならば俺はそれだけで十分だ。


「何よそれ…そんな」

「馬鹿げているわ。侯爵の座を捨てて、貴族を捨てて、この人を取るの?そんな価値があると」


「私には何か言う資格はありません。ですが哀れに思いますよ。イライザ嬢も、ローズマリー嬢も」


打算的な物でしか解らない二人。
一度でも温かい愛情に触れたことがないからこそ解らない。

本当の絆を知らない二人はある意味哀れでしかない。


「無礼者!この私が哀れですって…今すぐ消えて頂戴」

「はい、失礼いたします。アイリス」

「はい、ユーリ様。お父様、お母様、今までありがとうございました。」

最後にアイリスは両親に頭を下げるも。


「なんて事…貴女なんて娘でも何でもないわ!この疫病神…貴女なんて生まれてこなければよかったのよ!今すぐ私の前から消えて頂戴!」

「おい、人が見ているだろう!止めないか」

「だって、こんな屈辱ないわ。これの所為で!」

最後の最後までこの人は変わらないだろう。
アイリスはずっと貴女に認めてもらうために必死だった。

どんなに顧みられなくとも努力し続け我儘も言わなかった。

誕生日や、祝い事は無視され続け。
ずっと苦しんでいた娘にあんまりじゃないか。


「お母様、私を産んでくださったことを感謝しております。例え私は貴女にとってスペアだったとしても…」

「アイリス…」

「ユーリ様、もういいのです。これで吹っ切れましたわ。母を追いかけることは今日で辞めますわ」

ここまで酷い事を言われながら笑えるアイリスは強い人だ。
恨み言を言って泣き叫んでもおかしくないのに、貴族令嬢としての矜持を捨てなかった。


「ごきげんよう」

最後は笑顔で去る。
これが淑女の鉄則だったが、それをやってのけた彼女はやはりすごいと思った。

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