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第二章
38騎士と医師
しおりを挟む苦しむ侍女の背中をさすりながらなんとかして茶を出させようとする騎士だったが上手くいかない。
「失礼」
「ソフィア様?」
「出したものを吐き出させます…少し頑張ってください」
ソフィアは背中を思いっきり叩くと大量の嘔吐物を吐き出させた。
「ゲホッ…」
「これを…ミルクは毒を消すにも最適ですわ」
侍女を開放しながら差し出したミルクを飲ませる。
その間ドレスが汚れてしまったが、気にすることなく介抱する姿に騎士は感銘を受けた。
「なんと慈悲深いのか…それに引き換え」
ちらりと視線を向けた先では――
「ちょっと!私のドレスや髪にかかったじゃない!臭いし汚いし」
「もう最低だわ!」
「どうしてくれるのよ!」
三人はドレスや髪の汚ればかりを気にしていたのだった。
「なんという非道な」
騎士は三人のやり取りを見て嫌悪感を露わにする。
本来なら率先して動くべき人間が動かず関係ないはずのソフィアが動いたのだから。
「患者はどちらに!」
「宮廷医師の皆さま!患者はこちらです」
「これか…」
騎士が急いで医師を呼んだのだがその中には王族専属の薬師が散乱しているテーブルや散らばる嘔吐物を見て厳しい表情をする。
「薬師殿…」
「原因はこのお茶です。これは毒に近いのです」
ソフィアが飲んでいたお茶の成分を見て告げる。
「毒だと?」
「通常は薬となります。ですが茶葉に使えば腹痛、頭痛に大量に飲めば吐血もします。この薬草を飲んだこともない患者は拒否反応を起こします」
「後遺症などですか」
「はい、中には一生車椅子生活を余儀なくされている者も」
薬師はこの薬草を生産している人間が誰か知っていた。
「侯爵令嬢。この薬草を生産しておられるのは貴女様のご実家です。知らないとは言いませんな」
「それは…」
「危険性を知っていたはず、その侍女も薬草に関してはプロのはず、気づかないはずがありません」
気を失っている侍女に尋問は無理だ。
だからこそ代わりに主である侯爵令嬢に告げた。
「このカップは…」
「私に用意された物です」
「待ってくださ…」
調べようとする薬師を止めたのは、侯爵令嬢だった。
「動かないように!大事な証拠品として提出します」
「証拠品?」
「外部の人間かもしれません。明らかに暗殺計画ですな」
「狙われたのはソフィア様です」
断言するように告げられ三人はビクつく。
「何故ですの?」
「そうですわ。それに侍女にお茶を出しだしたのはソフィア様ですわ」
「もしかして…」
焦った三人は苦肉の策で馬鹿な事を考えた。
計画は崩れたがソフィアをここで実行犯にすれば良いと思ったのだ。
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