92 / 117
第二章
35攻防戦②
しおりを挟むお茶を飲みながらちらりとバーバラを見る。
唇を噛み締め、侍女を乗らんでいるのが解ったがあえて無視をした。
睨まれた侍女は他の令嬢の傍付きだというのが解る。
(顔色が悪いわね)
他人事のように思うソフィアだが、自業自得だと思った。
ソフィアは聖女のような性格をしていない。
慈悲の心を持って接する時は使い分けていた。
…というか、これまで散々な嫌がらせを受けても耐えていただけ優しい方だ。
本当は今日のお茶会でも情けをかけてある程度は我慢するつもりだったが、ソフィアを怒らせてしまったのだ。
何故なら薬草を取り扱う者としてのプロ意識といった所だ。
紅茶に含まれている薬草は少量であれば死ぬことはないが、大量に摂取すれば猛毒になる。
その効果を知っていて、お茶会に使う行為が許せなかった。
同じく薬草を使う者として薬ではなく毒に使う行為は許すわけにいかなかった。
しかもお茶会に使うことにまったく躊躇もしなかった事から常習犯だと言うことが解る。
(お仕置きが必要だわ)
ぶるぶる震えているバーバラに関しては勿論だが、薬草を扱う者の責任感の無さが許せない。
(もし私が解毒剤を飲んでなかったらどうする気だったのか)
最初の一杯に飲む前に入れた甘味料とミルクは解毒剤以上の効果がある。
もし飲んでいなかったらどうしていたか。
もし持病を持っていたら。
死ななくとも大変なことになっていたというのに。
王族暗殺未遂事件に発展したらと考えない浅はかは許されないのだから。
「どうなさいましたの?」
「えっ…」
「顔色が悪いようですわね。そこの貴女も一杯どうかしら?」
侍女に声をかけソフィアは他のティーカップに注がれたお茶を差し出す。
「いえ…」
「遠慮なさらないで?貴女のご主人様の家の特産物でしょう?」
「それは…」
断れない言い回しをする。
万一ここで断れば角が立つだけで済まないのだから。
「それとも、こちらのお茶が飲めなかったかしら?」
「我が侯爵家の特産物を侮辱なさる気!」
「言葉が過ぎますわよ。このお茶は最高級でしてよ」
「そんなつもりはありませんわ。ただお飲みにならないのはどうしてかと…飲めない理由があるのかしら?」
令嬢達は口々にソフィアを責めるも、お茶を飲めない理由を尋ねると口ごもる。
そして僅かな沈黙ののち。
「飲みなさい」
バーバラが侍女に命じたのだった。
131
お気に入りに追加
5,212
あなたにおすすめの小説

好き避けするような男のどこがいいのかわからない
麻宮デコ@ざまぁSS短編
恋愛
マーガレットの婚約者であるローリーはマーガレットに対しては冷たくそっけない態度なのに、彼女の妹であるエイミーには優しく接している。いや、マーガレットだけが嫌われているようで、他の人にはローリーは優しい。
彼は妹の方と結婚した方がいいのではないかと思い、妹に、彼と結婚するようにと提案することにした。しかしその婚約自体が思いがけない方向に行くことになって――。
全5話
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません
今川幸乃
恋愛
貧乏貴族の娘、エレンは幼いころから自分で家事をして育ったため、料理が得意だった。
そのため婚約者のウィルにも手づから料理を作るのだが、彼は「おいしいけど心が籠ってない」と言い、挙句妹のシエラが作った料理を「おいしい」と好んで食べている。
それでも我慢してウィルの好みの料理を作ろうとするエレンだったがある日「料理どころか君からも愛情を感じない」と言われてしまい、もう彼の気を惹こうとするのをやめることを決意する。
ウィルはそれでもシエラがいるからと気にしなかったが、やがてシエラの料理作りをもエレンが手伝っていたからこそうまくいっていたということが分かってしまう。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。

地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました
くも
恋愛
王都の社交界で、ひとつの事件が起こった。
貴族令嬢たちが集う華やかな夜会の最中、私――セシリア・エヴァンストンは、婚約者であるエドワード・グラハム侯爵に、皆の前で婚約破棄を告げられたのだ。
「セシリア、お前との婚約は破棄する。お前のような地味でつまらない女と結婚するのはごめんだ」
会場がざわめく。貴族たちは興味深そうにこちらを見ていた。私が普段から控えめな性格だったせいか、同情する者は少ない。むしろ、面白がっている者ばかりだった。

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。
黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。
差出人は幼馴染。
手紙には絶縁状と書かれている。
手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。
いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。
そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……?
そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。
しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。
どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる