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第二章
30嵐前の静けさ
しおりを挟む昼下がりの時間。
とても静かで不気味だと思った。
何もないのは喜ばしい事だが、ここ数日は嫌がらせのオンパレードだったのでこうも静かだと不安を抱いてしまう。
「静かね」
「はい、本来なら喜ぶべきなのでしょうが」
傍付きの侍女の警戒していた。
「公爵令嬢の様子はどう?」
「不気味ですわ」
通常ならこのような言い方は不敬に当たるのだが侍女達はバーバラの行動にうんざりしていた。
これまで公爵令嬢なのをいいことにやりたい放題をしていたので敬意を持てと言う方が無理な話なのだが。
「午後からはローゼマリー様もエリオル様も公務故にお傍に入れないと嘆いておいででしたわ」
「ご自分がいらっしゃらない間に何かあってはと」
「心配し過ぎよ」
用心する必党はあるが24時間体制で傍で守るなんて不可能なのだが、あの二人の過保護っぷりは日に日に酷くなる一方だった。
「嫌がらせは実害はないわ」
「お言葉ですが、他の貴族令嬢でしたら精神的に病んでますわ」
「あら?随分とデリケートなのね」
少し前までの苦痛に比べればドレスを破かれたり、寝室にネズミや害虫を仕組まれる等可愛いものだ。
元から辺境地出身であることもあり、その手の物は特に気にしなかったのだが。
「ですが要人をしてくださいませ」
「はいはい」
「本当に大丈夫でしょうか」
ソフィアは用心しているつもりだ。
この静けさが逆に不気味だと思ったが逃げているだけでは先に進まない。
(いつまでも大人しくしているつもりはないわ)
内心では少し怒っていた。
ただでさえ多忙なエリオルの手を煩わせ、貴族派であろうとも国を守る立場にありながら権力を自分の為に使うなんて論外だ。
ローゼマリーの立場を悪くすることばかりして、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだった。
それでも、感情的になった方が負けだと思い、耐えていたのだ。
「とにかく…」
その時だった。
部屋に遠慮がちにノックの音が聞こえたのは。
「はい」
「失礼します」
部屋に招き入れたのは、バーバラとよく一緒にいる侍女だった。
「貴女は…」
「バーバラ様の侍女のアミリア・コルゲンと申します」
「公爵令嬢の侍女様が何用ですの」
ソフィアの前に立ちふさがる侍女達は睨みつける。
「そう睨まないでくださる?」
「何を抜け抜けと!」
これまで散々嫌がらせをされたのだから当然と言えば当然だが、相手は平然としている態度だった。
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