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第二章
24嘆きの侍女③
しおりを挟む公爵令嬢暗殺の計画を考えたのはバーバラだったが、短絡的な思考の持ち主故に完全犯罪など不可能だった。
万一医師が調べれば解る。
だからこそ足がつかないように必要最低限の調べだけを許可した後に毒のほかに持病を持ってると噂を流したのが母親だった。
実子を一番邪魔に思っているのは公爵夫人だった。
クレミア公爵家を乗っ取るには、前妻の娘に不幸な事故か病で亡くなってもらう必要がある。
現に今まで引きこもり状態にして社交界にも出られない使えない女というレッテルを貼り、居場所を奪っていたのだから。
だからと言って使用人は見て見ぬふりだ。
古くから仕えていた使用人は解雇されたり、罪をでっちあげて追放の身となっている。
これもすべて計画的犯行だった。
事実に気づいた侍女は本当に恐ろしい親子だと思った。
(だとしても私には関係ないわ)
例えそれで亡くなったとしても同情もしない。
高位貴族ならその程度回避できないのが悪いのだ。
(所詮は血筋だけのお嬢様。いずれ別の形で死んでたわ)
侍女は馬鹿が嫌いだった。
優しいだけでは社交界は生きていけないことを知っている。
実家を出て侍女になるべく行儀見習いに入った時も思った。
この世は弱肉強食だと。
弱ければ生きていけない。
強いだけでもダメだとも思っている。
他人を蹴落として上に這い上がってこそ黄金を手に入れることができる。
(そうよ、強い者だけが得られる)
まるで自分に言い聞かせるようだった。
王宮内でもかつて侍女見習いをしていた同期に遭遇しても。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
顔を合わせて挨拶をする。
「聞きましたわよ。公爵家の侍女になられたんですってね」
「ええ…貴女は相変わらず王宮に努めているの」
「今はい王女宮勤めよ」
「え?」
王女宮勤めと聞かされ驚く。
侍女の中でも出世コースではないかと思った。
「どうして…」
「王宮勤めをしていた私に偶然王女殿下が声をかけてくださって、王女宮の庭園の管理を任されたの。そこから傍付き侍女にと…侍女長様から」
(何でよ!)
同期の侍女は、見習い時代からぱっとしなかった。
騎士の娘で平民上がりだったことで家も貧しいから方向に来ていたのだ。
侍女としての階級も低く見下していた存在だったのに。
「私の育てる花を王女殿下が気に入ってくださって…それで、こんど結婚するの」
嬉しそうに微笑む元同期にいら立つ。
自分はこんなに辛いのに幸せいっぱいの表情が不愉快だった。
だけど顔に出さなかった。
(どうせ平民でしょう!)
ささやかな幸せで満足する程度だと見下していたのだが、それが大きな間違いだとも気づかなかった。
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