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第二章
22嘆きの侍女①
しおりを挟む「何様なの!」
ヒステリックに叫ぶバーバラに侍女はげんなりした。
これが初めてではない。
これまでどれだけ理不尽な命令を言われても二つ返事で答え、耐え忍んできた。
侍女の役目だからではない。
バーバラを慕っているというわけでもない。
この邸を出ても行く当てがないからだ。
他の侍女は公爵家に仕えることに執着していない。
侍女以外の仕事に就くこともできるし、幸いにもバーバラの悪評が酷いので実家から帰ってくるようにと言われたのだ。
だが現在公爵家に残った侍女は事情があるのだ。
借金を抱えている者や貴族派でこの邸に仕えざる得ない理由のある侍女もいる。
彼女達は自分の感情でこの邸を辞めることはできない。
「主人の命令に従わないなんてどうなっているの!今すぐ呼びなさい」
「申し訳ありません。無理でございます」
「は?私に逆らう気?」
「そうではなく…」
「身の程を弁えなさい!」
「きゃあ!」
カップに入った紅茶は熱湯に近く、顔にかけられ火傷を負うってしまう。
「私が命じたのよ?何様なの」
「ですが…他の侍女は既にお暇をいただいておりまして」
腕の痛みに耐えながら侍女は真実を告げる。
隠していてもいずれ解ることなのでここで話したのだが、バーバラは納得することはなかった。
「何を言っているの」
「先月から五名ほど侍女は依願退職願い出ております」
「聞いていないわよ!何で…」
「理由は聞いておりませんが、奥様の許可はいただいております」
何も聞かされていないバーバラは癇癪を起し、八つ当たりを受ける侍女は罵倒を浴びせられる。
(もう耐えられない…何で!)
耳を塞ぎたくなるような罵倒は日常茶飯事だった。
それでも慣れることはない。
(どうして私がこんな目に…)
伯爵家の次女として生まれた侍女は容姿にも恵まれ、それなりに自尊心を持っていた。
容姿も恵まれ、王都にて高位貴族に見初められるべく侍女の仕事に就いた。
公爵家の次女になる事はステータスだった。
未来に希望を膨らませ、高位貴族に見初められることを夢見たが、その予想は大きく外れてしまった。
当初、高い倍率の中公爵家の侍女として働くことが決まり喜んだ過去の自分を叱ってやりたくなった。
我儘放題で、常識知らずのお嬢様のお世話はストレスの連続だった。
命令に背けば何をされるかわかったものではないし、その母親も絵に描いたような傲慢な女で日々耐えるのが精いっぱいだった。
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