聖女な義妹に恋する婚約者の為に身を引いたら大賢者の花嫁になりました。今更婚約破棄を破棄にはできません!

ユウ

文字の大きさ
上 下
69 / 117
第二章

12朝の争い

しおりを挟む
「まずは先程の女性ですが。彼女は正真正銘、お二人を守護する母君です」


 玄武は淡々と告げる。


「降霊……イタコとは違いますよね?」


 口元に手を当てるようにして考えながら問うたのは美作である。


「違います。主は完全な自己流です。『対象者』を呼び、その身に宿らせて直接の会話を可能とさせます。その間、宿らせる代償として霊力を消費しています。『対象者』のチカラが強ければ強いほど、主の負担は大きくなります」
「あ……!」
「今回はその心配はありませんでしたが、『宿主』としての主を乗っ取ろうとする輩も居ますので、その対策も必要なのです」


 以前にそんなことがあったのだろうと思わせる、玄武の言葉に美作はゾッとする。
 降霊どころか口寄せすら相当な修行が必要であると聞く。
 それを自己流でやってしまう瞳の能力の強大さ、そしてそれを乗っ取られて悪用された場合のことを考えたのだ。


「あの、お母様の姿は? あれは幻影なのですか?」


 恐る恐る、といったように玄武に聞くのは律だ。


「あれは主の霊力を借りて母君が姿を具現化させたもの。主の意思は一切働いておりません」
「そうなのね……」
「彼女はあなた方の守護としてずっと側についていました。主は、それを伝える手助けをしただけです」
「触れるなと言ったのは?」
「あなた方は彼女に触れることは出来ません。触れようとすれば、主に触れることとなり、主の集中が途切れます」
「なぜ、そこまで……」


 疑問を口にしたのはやはり美作だった。
 彼は加護を持たない。少しの守護に守られているだけだ。むしろ彼がすごいのは、本人の『術者』としての実力だろう。
 それを、おそらくは瞳も、玄武も青龍も気付いている。美作はそう思った。
 美作も相当な修行を経てやっと今日に至る。『視る』ことも決して得意ではない。
 そんな美作にさえ『視える』ようにしてしまうほどの実力を持つ人を、彼は他に知らない。


「……主の両親は殺されました」
「え……」
傍系ぼうけいであるという理由で。チカラのある主を本家に入れるために」
「お家事情というやつです」


 淡々と告げる玄武の言葉に、青龍が言葉を足して。そして、これ以上は聞いてくれるなと釘を刺す。


「……人付き合いが下手なくせに、お人好しなんですよ」


 ふと、玄武の口調がやわらかくなり、瞳の髪を撫でる。


「……主は、ずっと悩んでいました。この強いチカラは何のためにあるのかと」
「あ、メガネ……」
「はい。主は視えるだけではなく、彼らの声も『聴こえる』し、『話す』ことも出来ます。だからこそ、人との距離を上手く掴めずにいたのです」


 円は昨日のメガネの件を思い出した。
 視え過ぎるせいで結界を貼ったメガネをしていた瞳。


「主が、『視え過ぎる』ことを話したのは、あなたが初めてです」


 それは出会いが出会いだったからだろう、と円は思うけれど、それでも誤魔化さずに教えてくれた瞳には感謝するしかない。そうでもなければこんなことにはなっていない。


「ほんと……バカ正直」
「そうとも言いますね」
「あんた達もだよ」
「おや」


 玄武はいかにも心外だと言いたそうだったけれど、青龍は苦笑していた。


「我々は主に使役される身です。主の命とあらばあなた方のこともお守りいたしましょう。ですが、主を傷付けたなら、我々全員を敵に回すことになりますこと、お忘れなきよう……」


 玄武の剣呑な言葉を真の意味で理解したのは、おそらく美作だけだっただろう。
 玄武は、『我々全員を』と言った。少なくとも、この二人だけではない、という意味と捉えて間違いはない。


「ぅ……」


 美作一人が青ざめている中、瞳が身じろぎした。
 ぱっとそちらに視線が集まる。


「ヒトミ」
「……玄武?」
「はい」


 ぼんやりとしていた瞳だったが、次第に覚醒してきて現在の体勢に気付いた。
 玄武に膝枕。まあ仕方ない。


「ありがとう」
「起きられますか?」
「大丈夫」


 手を貸そうとする玄武と青龍を手で制し、自力で起き上がる。
 瞳がソファへ座ると、玄武はサッと立ち上がり、瞳の後ろへ青龍と並んで立つ。


「どこまで聞いた?」


 瞳からの問いは、円へ。


「瞳のチカラがすごいってとこまで」


 明るく答える円だが、瞳の顔色が悪いことは見逃さない。早くゆっくり休んだ方がいい。


「……名前で呼ぶなって言ったろ、御曹司」
「そっちこそ、円って呼べって言ったろ?」
「……オレの言霊は強いから、お前を縛るんだよ」


 何度も言ったし、『言霊』の意味さえ調べさせたのに。


「『西園寺』じゃ姉貴にも当てはまるじゃん! それに俺は御曹司じゃないし」


 やけに食い下がるな、と瞳が思っていると。


「とりあえず、瞳はゆっくり寝ないとダメだ。じゃあ律、俺ら帰るから!」
「ん? 帰るって……」
「俺、いま瞳の家に居候してるんだ!」
「ちょ……!」


 あれよあれよという間に、円は瞳と式神ふたりを連れて行ってしまった。
 残された律と美作は顔を見合わせる。


「これからどうなるのかしら……」
「それは分かりかねます……」


 とりあえず美作は、瞳の式神たちの怒りを買うことだけは避けようと心に誓った。
しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

そのご令嬢、婚約破棄されました。

玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。 婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。 その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。 よくある婚約破棄の、一幕。 ※小説家になろう にも掲載しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...