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第一章
56聖女の事情⑬
しおりを挟むその後、テレサは他の聖職者に差し伸べられた手を握り、前を見て歩くことを決めた。
過去に犯した過ち。
その過ちが消えることはないが、今すべきことは一つしかない。
「テレサ」
「はい」
「貴女の罪は簡単に消えるものではありません」
アンルウの言葉は正論だった。
過去にしてきたことは決して許される所業ではない。
「ですが、神様はどんな罪を犯す罪人も許してくれるでしょう」
「アンルウ様?」
「罪をちゃんと償うのです」
厳しい言葉と裏腹に表情は何所までも優しかった。
「貴女は自分の罪を受け入れられる人のはず」
「はい…はい!」
「幸せになってはならない人間はいないのだから」
(どうして…)
何故こんなにも優しいのか。
残酷で優しい世界の中、テレサはもう一度歩き出すことを決意した。
長きにわたる聖地巡礼を終えた後に、指定された修道院ではなく。
最も厳しいと言われる北の修道院を選び、出家した後に修道女となることを決意した。
その間も、社交界の噂が彼女を苦しめたが立ち止まることなく人々の為に奉仕活動を続けた。
その懸命な行動に噂は次第に消えて行き、聖職者として認められるようになり小さな神殿の管理を任されるまでになった。
過ちを犯した過去は消えなくとも悔い改める心があれば人はやり直せる。
ただし、悔い改める気持ちがない者には救いはなかった。
そう、同じく裁きを受けたヘリオス達は――
「くそ、この俺は平民になるなんて!」
最後まで他人の所為にしてやりたい放題をした結果、村からも孤立し誰からも手を差し伸べて貰うことはなかった。
くだらない事情に手を出し借金を重ねた後に夜逃げをすることになったのだが…
「いたぞ!」
「借金を返せ!」
借金取りに追われ村から村に逃げる生活を続けていたのだった。
その報告を受けたメティスは――
「ここが分岐点ね」
テレサは心から反省して罪を償い人生をやり直すことができたが、ヘリオス達は最後まで反省することはなく、罪を償う気はなく終われる日々を送った後に犯罪を繰り返し、指名手配犯となったとなったのだったが。
そう仕組んだのはメティスだった。
「フッ、逃亡は何時まで続くでしょうね?」
人を呪わば穴二つ。
恐ろしい穴が用意されていることを彼らはまだ知る由もない。
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