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第一章
52聖女の事情⑨
しおりを挟む変わらない者なん存在しない。
永遠の愛も存在しなければ無償の愛なんてあるはずもない。
幼過ぎたテレサは忘れていた。
自分から愛する人を捨て、愛情を注いでくれた人の助言を聞かなかったことで今の状況があるのだから。
戻れるものなら戻りたい。
心から思ったのが今この瞬間だった。
一夜明けて、まだ早すぎる時間に起床をして再び歩く一同。
食事も質素で食べた気がしないテレサは睡眠を取っても、体のダルさは変わらなかった。
ただ黙々と歩く中。
道中では餓死寸前の村や、疫病で苦しむ村を目に知ってぞっとする。
ここまで酷い村に視察に行くことはなかったからだ。
旅が始まったばかりなのに、テレサは心が折れそうになる。
(こんな酷いなんて…)
この度で聖職者達は戦後傷ついた民を救済するのも仕事のうちだった。
アンルウを筆頭に聖職者は炊き出しを行い、治療も行った。
テレサもできることをするが、傷の手当てを手伝おうとしたがあまりの悲惨な傷に嘔吐をしてしまい、肉体労働はできず炊き出しの手伝いをした。
ようやく落ち着きを取り戻したころに、他の村から応援に来てくれた自警団が食料を届けてくれた。
「この度はありがとうございます」
(えっ…)
若い青年の声だった。
どこか聞きなれた優しい声に驚きを隠せない。
「いいえ、食料の支給をしていただき助かりました」
「こちらの村の被害は随分酷いですね」
ドクン…ドクンと心臓の音がする。
あの頃よりも少し落ち着いた口調だったが、この声を忘れるはずがない。
だってこの声は――。
(フィリオ?)
ゆっくりと声のする方に視線を向けると。
「助かりましたわ。私は代表のアンルウと申します」
「私は自警団のリーダーのフィリオと申します」
互いに握手をする二人に釘付けだった。
(フィリオ…フィリオだわ!)
思わず駆け寄りたい。
今は仕事があるので無理だと解っていながらもテレサの足は自然と進んだ。
(フィリオ!フィリオ!)
別れた時よりも大人びていたが、面影がある。
今すぐに声をかけたい衝動にかられたテレサは持ち場を離れて声をかけようとした。
「他の皆さんにもご挨拶を」
(気づいていて…)
テレサがフィリオの名前を呼ぼうとした時だった。
「フィリオ!」
もう一人の女性がこの場に現れる。
「えっ…」
見慣れない女性だった。
フィリオの元に駆け寄る女性は少しふくよかだった。
「セレナ」
愛しい人を見る目をするフィリオは穏やかな表情で、テレサにとっては残酷な現実だった。
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