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第一章
50聖女の事情⑦
しおりを挟む婚約破棄事件は第三者の介入により収まった。
しかし別の断罪となり、婚約破棄を宣言したヘリオスはあんなにも愛を囁きながらテレサに騙されたと暴言を吐き続けた。
テレサは心の底から後悔をしたが、今は後の祭りだ。
けれど、この時はまだ解っていなかった。
自分が受け身だったことでどれだけソフィアを傷つけたか。
謹慎を言い渡され聖女宮で軟禁状態にある中で、一度だけメティスが面会を許可した。
そこで厳し尋問とこれまで行ってきた非道な行いを突きつけられた。
そんなつもりはなかった。
悪気はなかったと言おうにもメティスは許さなかった。
知らなかったでは済まされない。
これが王宮に来てすぐの頃、何も知らないでいた頃なら許された。
だが数年間淑女教育を受け、最低限の貴族の振る舞いを叩きこまれた後では言い訳は通用しないのだ。
(私は…なんてことを)
一歩間違えれば恩人であり姉のように慕っていたソフィアを地獄に叩き落としていたかもそれない。
第三者からは姉の婚約者を奪った恩知らずな最低最悪の悪女だ。
事情を知らなければテレサもそう思うだろう。
テレサに残された道は罪を償うこと。
そしてもう二度とソフィアの前に現れないことだ。
数日後、引退する聖職者達と一緒に聖地巡礼の旅に出る。
その後に修道院に入り修業をしなくてはならない。
長い長い道のりの中で罪を償わなくてはならない。
そして旅立ちの日。
テレサは顔を隠し、聖職者見習いとして聖地巡礼の旅に向かうことになった。
勿論テレサを見送りに来るものは誰一人といなかった。
寂しくもあるが王宮に味方なんていない。
思えば王都に来てから心を許せたの相手はいなかった。
ソフィア以外には。
「まずは王都を出た後に西側から回ります。地図を」
「はっ…はい」
淡々と話す一番高齢の聖職者はにこりとも笑わなかった。
王宮に仕える巫女とは異なっており接し方が解らない。
(なんだか怖い…)
聖女だったからこそ敬意を持ってくれた聖職者はいたが、聖女の地位を剥奪され実質追放の身で聖地巡礼の旅に同行することは真面目に聖職者として勤めて来た者からすれば迷惑だった。
特に独身を貫き操を捧げて来た者からすればテレサの行いは許されるものではなかったのだから。
「足手まといになるならば置いていきます」
「本当に迷惑だわ。堕落した聖女を旅に同行なんて」
「道中では汚らわしい行為をなさらぬように」
特に厳しいのは修道女達だった。
何も言えず顔を俯かせるままテレサは後を追いかけた。
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