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第一章
49聖女の事情⑥
しおりを挟む甘い言葉だけを囁く人間が必ずしも味方ではない。
むしろ時には厳しい言葉で叱ってくれる人間が味方なのだと気づけなかった。
気づくには遅すぎた。
気づいたころには取り返しのつかない状態だった。
「テレサ、君を愛している」
「え?」
「君は優しく美しい。何の役にも立たないソフィアとは比べようもない。だが神は君と俺をめぐり合わせた。俺はソフィアと婚約破棄をする」
(何を言っているの?)
捲し立てるように話すヘリオスにテレサはついていけなかった。
「あの女は邪魔だ。君と俺が結ばれるには婚約破棄をしなくてはならない。君だって鬱陶しいと思っているだ」
「何を…」
「淑女教育に関してもだ。愚痴っていただろう…母も君と夫婦になる許可は貰った。今日のこの日は俺と結ばれるんだ。夫婦となり君はこのまま王都に残るんだ」
「私は…」
「君の望むままだ。村に戻ることはない。俺が後で使者を出し二度と会わないように命じてやる。少し脅せばいい…所詮平民だ」
テレサの中で絶望が生まれる。
笑いながらヘリオスの言う言葉に絶句したのだ。
何故そんな恐ろしい事を平気で言えるのか。
そんな中、侍女も口をそろえて言う。
「当然ですわ。聖女様が今更あのような汚い村に戻るなど」
「ソフィア様も身の程を弁えればいいのに。すでにお二人は愛し合っているのですから。これで安泰ですわ」
「ええ…」
まるで能面のようだった。
顔が解らないままだったが目に見えない悪意がしっかりと感じられる。
「邪魔なものはすべて俺が排除してやる。君は俺と生きるんだ」
ぐっと手を掴まれぞっとする。
(本気じゃないわよね?)
怖いと思いながら反論は許さないという空気に言葉を失うが、長年連れ添った婚約者を捨てるなんてありえない。
そう思っていたが婚約破棄宣言と断罪が始まった。
大勢の前で真実の愛を語り、ソフィアを傷つける言葉を吐く。
そんな中微かに聞こえて来たのは。
「とんだ聖女だわ」
「ソフィア様がどれだけ尽くしたか」
「他人の婚約者を寝取るなんて…なんて気持ち悪いの」
聞こえてくる言葉はただの陰口ではなかった。
悪意の感情が強く、聖女であるテレサは負の感情を受けやすく意識を失いそうになる。
(痛い…気持ち悪い!)
この痛みは神殿にいた時のもの。
そして王宮に来てすぐ、味方もいない中孤独だったころの痛みだった。
(助けて!)
声に出ない悲鳴を上げるも今のテレサを守ってくれる人はいなかった。
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