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第一章
46聖女の事情③
しおりを挟む人の役に立ちたいという思いは嘘じゃない。
だけど自分は選ばれた特別な存在という言葉に浮かれていたのは事実だ。
聖女となり王宮に上がれることにわくわくした。
だけど夢は一瞬で冷めるのだ。
村を出てすぐに王都に入った後に神殿にて着替えをさせられた。
「これよりは身に着けている物はすべて処分いたします」
「え?」
「王宮は新鮮な場所。特に貴女様は王宮内にある聖女宮に入る以上は汚れた気を持ちこむことは許されません」
服は勿論の事。
髪留めペンダントもすべて没収された。
「待って…それは!」
母から送られた髪飾りにペンダントはフィリオから送られた大切な品だった。
「すべて燃やしなさい」
「止めて!」
目の前で炎の中に投げ込まれる。
「これからは聖女様として過ごすのです。髪飾りも装飾品も必要ありません。もっと相応しい品を」
「だからって…」
処分されるなんてあんまりだと涙を流そうとするも。
「簡単に泣くことは許されません」
「え?」
「貴女様は聖女様です。これよりは民の為、国の為に祈るのです。この程度の事で傷ついてはやっていけません」
村で見た時と異なる表情に唖然とする。
優しさの欠片もないのだ。
「湯浴みの準備を。体を清めるのです」
「「はい!」」
傍に控えていた侍女がテレサを連れて行く。
その間も言葉を交わすことなくただ作業を行うだけ。
まるで人形だった。
何を話しかけても同じ表情に同じ返事。
怖くて仕方なかった。
「準備は整いましたね聖女様」
「聖女様、さぁこちらに」
神殿では10日間を過ごした後に王宮に向かうがその間常に聖女と呼ばれテレサと呼ばれることは一度もなかった。
聖女としか呼ばれず、名前を呼ばれることがない事に怖くなった。
しかし反論は許されず、地獄の日々が始まった。
起床は夜明けと共に。
就寝はまだ暗くなる前の時間で、ずっと同じ部屋で監視されながら聖書に関して勉強を強要された。
「明日までにこれをすべて暗記してください」
「無理です…」
「無理?そんな言葉を言ってはなりません聖女様。できないという言葉は通じません」
「だって…こんなの」
聖書のように分厚い本が五冊。
暗記するには時間が足りないし、内容は難しいのだ。
「聖女様は一般教養がありません。急いで覚えなくてはなりません」
「私はお針なら…」
「そのようなもの役に立ちません。それに言葉になまりがあります。そのような言葉が聖女様に相応しくありません」
「でも…」
「なまりが出る言葉は話さないように。語学の勉強時間を増やします」
睡眠時間も削られるようになり、テレサは耐え忍ぶ時間が増えた。
誰もテレサなど見ていない。
必要なのは聖女の力を持つ少女だけだった。
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