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第一章
45聖女の事情②
しおりを挟む召し上げという言葉に一瞬だけ首をかしげたテレサだったが聖職者が優しく語り掛けた。
「貴女様は尊き方。選ばれた姫君です」
「選ばれた?」
「そうです。今後は聖女様となり王女殿下のお傍で我らをお導きいただくのです」
身分の高い者達が膝をつき一瞬は驚いたが、まるでお姫様になったようだった。
ずっと平凡で、王都の生活はどんなものか、時々見る貴族の馬車や、貴族のお姫様に憧れを持っていたテレサは深く考えずにいた。
まだ幼かったテレサがすべてを理解するのは早すぎたのだ。
「待て!テレサが王宮に召し上げられるだと」
「娘はどうなるのです!」
すぐに反論したのは両親だ。
王宮に召し上げという言葉がどういうことなのか理解していた。
「お言葉を慎まぬか!」
「良い。下がりなさい」
傍に控えていた騎士が声を荒げる。
「聖女様を王宮に召し上げると言うことはすなわち貴族として生活していただきます。すべてがを終わるまで」
「私達の娘を奪うのですか!」
「そんな…」
大事な一人娘を奪われたくない。
二人は反論をするも、相手は聖職者で何枚も上手だった。
「聖女様が見つかった以上は決定事項です。大変名誉なことです」
「だが…」
「何をそんなに怒っているの?お父さん、お母さん」
テレサはまるで解っていない。
王宮に行くことも、聖女になる意味も、貴族として振舞う本当の意味も。
「聖女となれば貴女は救世主となります。魔物に襲われ傷つく方を救えるでしょう。既に隣の村も襲われ、明日この村もそ追われるかもしれません」
「そうだ!二人共、何故拒む」
「そうだそうだ!テレサが聖女になればこの村も援助してもらえるんじゃないか?」
「血迷ったのか!」
聖職者の言葉に村人は口々に告げる。
同時にテレサの両親は責められてしまうのだ。
「皆…どうしちゃったんだよ!」
「フィリオ、お前も幼馴染が聖女だったんだ。喜べよ」
「なっ…」
大人だけでなく子供までも捲し立てられフィリオは違和感を感じる。
「ではテレサ様にお伺いしましょう。どうなさりたいですか」
「え?」
聖職者はテレサと同じ目線になるように屈んだ。
「貴女様が王宮に行くことで救われる命があります。我らはできれば貴女に望んで聖女になっていただきたいのです」
「私…」
「役目が終われば貴女がの望むならば村に帰ることもお約束します。王宮に留まりたいならば貴族の姫として大事にされるでしょう」
その言葉がまるで甘い囁きだった。
どちらにしても悪いようにはならないことを前に出している時点で騙しているようなものだ。
だが村人の大半を抱き込み、テレサも騙すような手段を取った結果。
「聖女になります!」
テレサは了承してしまった。
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