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第一章
44聖女の事情①
しおりを挟む王都からそれ程離れていない小さな村でテレサは育った。
王都の生活とは異なりほほ自給自足の生活を行い、決して楽ではないか慎ましやかな生活を送っていた。
優しい両親と大好きな幼馴染と過ごす日々は平凡だった。
その平凡な暮らしを嫌だと思ったことはない。
母のようにいずれ結婚して機織りをして、夫を支え子供を産む。
そんなありふれた生活を送るのだと思っていた。
けれどある日、その平凡な暮らしに終わりが告げられた。
隣の村が魔物に襲われたのだ。
これまで魔物の襲撃を身近に感じたことがなかった。
初めてその惨劇を見て、村を壊され、非難して来た人を目の当たりにした。
傷で苦しむ人を見て胸が痛み。
少しでも手助けをしたいと思った。
だから母と一緒に怪我人の手当てを手伝おうとした時だ。
テレサが触れた瞬間、傷は癒えたのだ。
「これは治癒魔法?」
「聖女だ…聖女の力だ」
通常魔力は貴族が受け継ぐのが大半だった。
生まれながらの才能が魔法だったのだが、テレサの両親は平民で、曾祖父も貴族の者はいない。
平民の中で魔力を授かるのは稀で、聖女ぐらいだった。
村では聖女がこの村で誕生したのだと騒ぎだした日から村の人達の関係が変わった。
「テレサ、家の中に」
「でっ…でも、今日はフィリオと」
「テレサ。家に入った方がいい」
幼馴染と出かける予定だった日だった。
しかし聖女だとあがめる一部の村人を不安に思う両親が外出を避けさせた。
「貴方…」
「仕方ない。しばらくは家の中に…貴族の方がテレサを養子にと」
「そんなことになったらあの子は!」
泣き崩れる母親。
貴族への養子縁組を望まれているとのことだ。
そうなれば二度と村に帰ることはできない。
それどころか貴族と言っても名ばかりの男で若い娘を愛人にしている色々噂が絶えない男だった。
「どうして…何故私達の」
「言うな」
聖女がこの村から誕生したことは誉だった。
だが、テレサの両親は嬉しいどころか嘆き悲しんだ。
他者よりも優れているのは、決していい事ばかりじゃない。
「テレサ、お前は聖女になるのか」
「え?」
「皆言ってるよ。お前が聖女になるんだって」
浮かない表情をしているフィリオにキョトンとするテレサ。
「聖女になんてなるなよ」
「え?」
テレサは考えるのが苦手だった。
だから今の現状を軽く考えていたのだ。
だから気づかなかったのだ。
フィリオも両親もどうしてそんな顔をするのか。
そしてその一週間後の事だった。
王宮の使者が村に訪れたのだ。
「お迎えに参りました聖女様」
聖職者である女性と背後に複数の騎士を従え王家の紋章が刻まれた旗を掲げられ正式に召し上げることを告げられた。
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