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第一章
40旅立ち
しおりを挟む一夜明けて早朝に、ソフィアはメティスに見送られて馬車に乗った。
「ソフィア、元気で」
「はい…」
涙のお別れはしないと決めていた。
それでも寂しさがこみあげてくる中、次に視線を向けるのは父だった。
「お父様」
「挙式を楽しみにしている。エリオル…色々すまなかったな」
「いいえ、ありがとうございます」
長い間辛い思いをさせたことの詫びだった。
けれど、あの決断は間違いではないと今でも思っている。
「あの時の厳しいお言葉があったから今があります」
「エリオル…」
カディシュは二人の未来を考えあえて厳し言葉を言ったが、信頼があってこそだ。
「お前の花嫁姿を見るのを楽しみにしている」
「はい!」
「では、そろそろ…」
別れを惜しむソフィアを考慮してできるだけ時間を作ったローゼマリーだったがそろそろ時間が押していた。
「侯爵閣下、ご息女はご心配なく。私が妹として迎えた後もお守りします」
「ローゼマリー様、ありがとうございます」
「いいえ、当然です」
満足げな表情のローゼマリーだったが同じ馬車に乗るルクスは冷や汗を流す。
「おい、あまりやり過ぎるなよ」
「黙れヘタレめ!出発だ!馬車を出せ!」
ローゼマリーの言葉にすべての馬車の扉が開き、魔法陣が描かれる。
「これは…」
「空から国へ帰るんだ」
「え!」
他国ではありえないことだが、大国で魔法が日常茶飯事に使われているのであれば珍しい事ではない。
しかも王家は転移魔法も使える程の強い魔力を持っているのだから。
「ゆっくりこの国に滞在し過ぎてな。大臣が怒っているんだ」
「いいのですか」
「良くないだろうな…帰ったら缶詰だろ」
帰国後の多忙を考えると頭が痛くなるエリオルとルクスだった。
「さぁ出発だ」
ただ一人、元凶であるローゼマリーだけは知らないと言った態度だった。
「何だ、お前達。何をそんなに落ち込んでいる」
「この後の事を考えると頭が痛いんだ」
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他の勇者御一行も表情は優れなかったが。
「お腹がすいた」
「お前、本当にいい加減にしろよ」
「何だ?何か悪い事をしたか」
「大体出発前にたらふく食っただろ!俺の分のサンドイッチもな!」
「声がしたんだ。サンドイッチが私に食べて欲しいと」
「しゃべるか!」
馬車の中で口論が続く中、エリオルが二人を止める。
「広めに馬車といえど、騒がないでくれ。空腹なら兵糧があるだろ」
「アルフェッカ王国の食事を食べ過ぎたせいで無理だ」
「お菓子ならごさいまずが」
「流石だソフィー。使えないこいつらとは正反対だ!記憶したらお前に食生活の改善を頼むとしよう」
「「それはお前の欲望だろ!」」
騒がしい声の中馬車はフリーレン王国の国境に入っていった。
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