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第一章
35犠牲者
しおりを挟む本当の犠牲者は誰だろうか。
一番傷ついたのクロウリーではないかと思うソフィアは顔を俯かせた。
「ソフィア」
「クロウリー様は唯一私に優しくしてくださったわ」
「彼は真っ当な人間だ」
傷つくソフィアの手を強く握るエリオルはクロウリーが気の毒だった。
エスリード家を建て直すべく奔走していたのにそれを台無しにした弟夫婦に甥によってすべてを失ったのだ。
「大丈夫だ」
「でも…」
「君の父君はそんな情のない方じゃない」
エリオルは思った。
表向きに処分をしたとしても別の形で救済する事をカディシュは考えているだろうと。
「お父様…」
ずっと苦労していたクロウリーがすべてを奪われ追放されるなんて理不尽だと思ったのだが、カディシュは無能ではない。
「現当主のクロウリー・エスリードは既に裁きを受けるべく領地返上以外に自身の財産をすべて慰謝料に差し出すと応じられておられると聞くが…」
「私としては、彼を追放するのは忍びないのですがね」
他の大臣や、王の側近はあくまで弟夫婦が問題を起こしていることを前置きにして報告書を読み上げる。
「この度の加害者はヘリオスと、息子を止めるどころか後押しした両親と聞く」
「ええ…あくまでクロウリー・エスリードは控えめな方です」
「この度も被害者でありながら責任を取ると誠意を見せました」
報告書にはクロウリーを弁護することが事細かに書かれていた。
「して、クラエス侯爵。そなたの意見を聞きたい」
「私としては、彼を責める気はありません。彼に何の罪もないのですから」
今回はあくまでヘリオスが加害者でありながら両親に責任を取ることができなかったに過ぎない。
だが、何のお咎めなしということにはいかない。
「降格に領地没収とする」
「えっ…」
国王の言葉にクロウリーは驚く。
降格と領地没収と言うことは貴族籍を除籍するわけではない。
「クロウリー・エスリードには西の最果ての領地、グラノーラ領地を与える」
「グラノーラ領地!」
国王の言葉に誰もが唖然とする。
通常なら降格と領地召し上げだけでは甘いというだろうが西の最果てと言われており夏は灼熱の炎のように熱く、作物がまるで育たない砂漠の領地だった。
「実質王都追放じゃないか」
「平民になった方がマシだ」
『地獄じゃないか…」
貴族達はヒソヒソ話誰も羨む声はなかった。
クロウリーはブルブル震え顔を俯かせるのを見て誰もが同情を抱かずにはいれなかった。
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