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第一章
33まるで喜劇
しおりを挟むすべてが仕組まれていたことだった。
普通に考えればおかしいと思うのに、リグルは気づかなかった。
何故なら独身時代にカディシュはリグルと面識はなかったのだから。
だからリグルも気づかなかった。
侯爵家のドラ息子との婚約も正式なものではない。
あくまで話があったにしぎず、可愛い娘を託すにふさわしいか課題を出した。
「フッ、とんだ策士だ」
「ご無礼を。ローゼマリー殿下」
「しかし悪くない。陛下、クラエス侯爵が不要ならばぜひ我が国に迎えたたい。我が国はまだまだ頭の固い男が多いのです。ここまで優秀なならば早々に辺境伯爵の地位を与えても良い」
「はい?」
「我が国の宰相補佐に迎えたいぐらいだ」
話がぶっ飛び過ぎているが、本気だった。
「作物の政策、貧しい民への救済にとどまらず他の領地に救援、救助も行っている。その才能と娘を守る為にすべてを失う覚悟をするとは実に欲しい」
「おい、欲しいって失礼だろ」
「黙れルクス。他国でここまで純愛を貫いた者は父上以外に知らん」
ローゼマリーは相当なファザコンだった。
周りからは見下され馬鹿にされた猫殿下と呼ばれていたが、妻を深く愛し、国を民を心から愛した立派な人格者と今でも思っている。
「ローゼマリー殿下、困りますぞ」
「そうですわ。クラエス侯爵は我が国にとって必要な方。彼を追放なんてすれば辺境伯爵家が王家に反旗を翻すでしょうし」
戦時中、カディシュは援助を押しなまかった。
その以前から中央を優先するあまり、王家は辺境伯爵家の生活が困窮しながらも援助をしなかった。
その代わりにカディシュは金銭以外の方法で援助した。
特に役立ったのは食料だった。
他にも薬草等もだ。
男手が足りないときは領民を派遣したり、時には仕事がない女性を領地に短期間だけ雇ったりとできる限りの援助をした。
その代わり一時は貧しくなったが、自身の生活が苦しくても援助を続けたのだ。
「ノブレス・オブリージュを続けた彼を裏切れば今度こそどうなるか」
「そうですか。残念です」
心底残念な表情をするローゼマリーだったが、ここで終わることはなく。
「では、この度の援助金の対価に彼を勅使に迎えていただきたい。そしてそこにいる無礼者の処罰を要求する」
「「は?」」
親子そろって素っ頓狂な声を上げる。
二人はこの場で裁かれなくてはならない理由を理解できなかった。
「ソフィア嬢は我が国の救世主だ。しかも大賢者の妻となるならば王室に入るだろう。そして地位は王族となる」
「はぁ?王族だと…」
「そんな!」
公の場で数回に渡る侮辱的な発言を繰り返し、しかも妻を大事にする男性を侮辱する行為はフリーレン王国をひてするも同然だ。
不敵に微笑むローゼマリーはメティアスにアイコンタクトを取り断罪の開始の合図を出したのだった。
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